プロ18年目を迎えた広島新井貴浩内野手(39)が、1日のキャンプ初日から体を追い込んだ。早朝のウエートトレ、通常の守備メニュー、ランチ特打に、最後は坂道ダッシュまでこなした。「お前もやる?」の誘いを受け、本紙池本泰尚記者(26)が体験することに。通算2000安打まであと29本に迫った男の神髄をリポートします。

 「見とったらそんなにきつくないと思うじゃろ。お前、野球部じゃろ? 走る? 走るぞ!」。約50メートルの坂道ダッシュ。27本目を終えた新井さんから突然、声を掛けられた。一流プロ野球選手のすごみを肌で感じられるチャンスだ。「お願いします!」と傘を置き、体験させてもらった。数分後には、後悔したが…。

 スタートから、コンクリートを蹴る音が違う。ぐんぐん離される。ちなみに新井さんは午前7時40分に球場入りし、今年から初めて取り入れる朝活ウエートトレーニングを行っている。その後、全体練習で守備練習をこなし、40分間のランチ特打。そして自らを追い込む坂道ダッシュ。すでに27本を走っている。異次元だ。39歳にまったくついて行けない。

 「コーナーを曲がってから、最後の勾配が変わるところがしんどいじゃろ。足にくるじゃろ。歩いて下るのもきついんよ」

 記者の足はがたがた。息はあがり、ぶるぶるけいれんしている。雨でスリッピーになった路面も足に負担を掛けてくる。新井さんはやさしく、楽しそうで、意地悪そうに笑っている。「おい、行くぞ!」。間髪を入れずに2本目に突入。結局5本を一緒に走らせてもらった。「もう1回、下半身を追い込む」。本当の意味が分かった。

 通算2000安打まであと29本。「実感はない」と言うが、何より最後、登り切るまで力を抜かないところに神髄を感じた。20代の頃は、ことあるごとに走らされていたという。今は自分から、追い込むためにこの坂を走っている。トータル1時間、本数にして32本。この「気持ち」だ。

 「何事もそう。見ているのと、実際にやっているのは違うじゃろ? 俺が来年現役だったら、護摩行に来いよ」。新井貴浩の神髄をもっと知りたい。でも、さすがにお断りさせていただきました。【広島担当=池本泰尚】

 ◆天福坂 天福球場の左翼側奥の室内練習場横にある心臓破りの坂。同球場名物で、コースは全長約50メートル。スタートから約15メートルで直角に左へと曲がる。その後約10メートルの「草が生えているゾーン」から勾配がさらに急になる。ちなみに、上り切っても絶景はない。