天国の父にささげる1勝だ。慶大の小原大樹投手(4年=花巻東)が、5回2失点でリーグ戦初勝利を挙げた。開幕前の3月26日に父誠さん(享年57)が末期の肝臓がんで死去。花巻東(岩手)で日本ハム大谷と同期の左腕は8安打を浴びながら粘り、法大から勝ち点を奪った。

 「大谷を救った男」が、悲しみを乗り越えて1勝をつかんだ。小原大は初回に4連打を浴びて2点を先制されながら、得意のフォークを低めに集めて自己最長の5回を投げきった。1年春のデビューから16試合目の登板で初勝利。「父にウイニングボールを渡すと決めていた。勝ててよかった」。57歳の誕生日に亡くなった父誠さんに、涙をこらえながら勝利を報告した。

 高校の体育教師だった父の教えを胸に、逆境をはねのけてきた。花巻東2年夏の岩手大会では、左足を痛めていたエース大谷に代わって連戦連投で甲子園に導いた。慶大受験の際、周囲から「合格は厳しい」と反対されたが、父は背中を押してくれた。「逃げることが一番嫌いだった。できるまで努力しろ、と言われていた」。大学2年時に左肘痛で1年間を棒に振っても、この日を信じてきた。勝利球を手渡された母祥子さん(43)は「主人は、酸素ボンベをつけてでも応援に行きたいと言っていた。本当にうれしい」と涙した。

 3月中旬、父との最後の会話で「何があっても野球を続けてくれ」と思いを託された。形見の腕時計をバッグに入れて試合に臨んだ左腕は「父は生き返らないけど、時計はまだ動いている。プロ入りの夢をかなえて、いつか大谷を追い越せるように頑張る」と決意を新たにした。【鹿野雄太】