大逆転劇の最初の一打は、金本チルドレンの記念打だった。1番左翼で抜てきされたドラフト6位ルーキー板山祐太郎外野手(22)が、3点ビハインドの3回にプロ初安打となる適時二塁打。チーム5試合ぶり、同42イニングぶりの適時打で、新風を吹き込んだ。これで今季プロ初安打をマークした阪神日本人野手は6人目。超変革へ、新戦力がまた出てきた。

 苦しんでも苦しんでも、自分のスタイルは崩さなかった。3回1死一塁。板山はDeNA山口の初球を振り抜いた。打球は左中間を真っ二つ。プロ初打席から1週間。10打席連続無安打で迎えた「11度目の正直」。ついにプロ初安打を記録。適時二塁打で初打点もついた。

 「どうしようかなとか、寮に戻った時に思ったりしたんですけど。やっぱりまだ1年目ですし、結果を恐れずに積極的にやるしかないなって。初球から思い切っていこうと決めてました」

 ドラフト6位入団。当初は指名予定がなかったが、ドラフト会議当日、金本監督が指名を決めた逸材だ。積極打法が売りだったが、1軍昇格後すぐに壁にぶつかった。初スタメンの4月28日巨人戦は菅野、同30日DeNA戦は井納と対戦。リーグを代表する右腕に手も足も出なかった。1度はスタイルチェンジも考えたが、最後はぶれなかった。6回の守備では左翼からワンバウンド送球で本塁補殺。守備でもアピールした。試合後に指揮官は「ラストチャンスだった? スタメンはね」。代わって出場することになったあのライバルの前で、見事にチャンスをものにした。

 「意外と気にしてます。新聞とか。あいつばっかりですよね。すごいですよね」

 刺激になる好敵手がいる。ドラフト1位高山だ。同じポジションで同学年。連日紙面をにぎわす高山の紙面に目を通し、沸々と反骨心をたぎらせてきた。「そういうのを見て自分も頑張らないとって思うんでいいんです。自分が活躍したら、大きく記事になりますよね。頑張ろうっと。あいつより振らないとうまくならないんで」。そう言うと、またバットを握ってマシン打撃を始める。ライバルの活躍こそが板山の成長の糧だ。

 「周りの若手の選手も結果を出していたので、自分も負けたくないと思ってやっていました。これからがスタートだと思うので。結果を残せるように準備したいです」

 指揮官秘蔵っ子の一打は、チーム42イニングぶりの適時打でもあった。新たな金本チルドレンが、ミラクル勝利への序章となる1本を放った。【梶本長之】

<板山祐太郎(いたやま・ゆうたろう)アラカルト>

 ◆生まれ 1994年(平6)3月27日、神奈川県生まれ。

 ◆球歴 小学2年から緑中央リトルで野球を始め、ポジションは三塁手。山岡フェニックスに移り、中学は中本牧シニア、成立学園では二塁手。亜大2年時に外野手に転向、東都大学リーグベストナイン3度獲得。

 ◆身体能力 入団後の新人体力測定では垂直跳び75センチを記録。新入団6人で最高記録。

 ◆1軍抜てき 2月キャンプでは高山と同時に最終クールで1軍昇格。しかし、オープン戦で結果が出ずに2軍降格。

 ◆ユーティリティー 入団後は大学で活躍した外野だけでなく、二塁や三塁でも試合に出場。キャンプでは遊撃の守備にもチャレンジ。

 ◆サイズ 180センチ、79キロ。右投げ左打ち。

▼板山が3回、プロ初安打となる二塁打。今季プロ初安打を記録した阪神の日本人野手は、高山、横田、北條、陽川、原口に続き6人目(ほかに投手の岩貞、外国人のヘイグ)。阪神では日本人6野手がプロ初安打を放ったのは、89年の金子誠一、亀山努、岩田徹、高井一、吉川弘幸、岩切英司が達成したケース以来、27年ぶり。