主戦捕手になって、5月の月間MVP候補になって、阪神原口文仁捕手(24)は神宮球場に帰ってきた。マークしていたヤクルト山田を無安打に封じると、7回先頭で右翼ポール際に3号ソロを放った。神宮球場でのゲームはプロ初、帝京時代の09年以来。7年ぶりのプレーで、攻守に勝利を追い求めた。

 原点の神宮で正捕手になるための試練を味わった。土壇場の9回、2点差に迫られ、なおも2死一、二塁でバレンティンを迎える。本塁打を浴びれば、逆転サヨナラだ。大砲のバットがうなる。大飛球は右翼上空へ。原口は肝を冷やした。フェンス手前で俊介のグラブに収まり、逃げ切ったが、ハイタッチでも顔はひきつったままだった。

 「風が吹かなくて、助かりました。相手チームの粘りもすごくあるので、終盤の守りはすごく厳しい」

 4点リードの展開だったが、終盤はヤクルトの猛攻で突き上げられた。7回に2失点、8回に1失点…。矢野作戦兼バッテリーコーチも「1試合を守りきることがどれだけ大変で、大事なことか」と力説したことがある。この日で17試合連続の先発マスク。薄氷の思いで逃げ切った。いばらの道を乗り越えてこそ、不動のレギュラーが近づく。

 勝利の立役者だった。2戦連続の5番に座り、バットが火を噴く。3点リードの7回。村中の外角直球を思い切り強振すると、右翼ポール際へ。力強い弾道でフェンスを越えた。「押し込めましたね」と振り返る、会心の3号ソロで加点した。どっしり構え、球を見極め、正確にとらえる。いずれも得点に絡む、2戦連続の猛打賞をマークした。

 懐かしい雰囲気に血も騒ぐ。7年前の夏。帝京の正捕手として09年は夏の甲子園をかけた決勝の舞台に立った。ここで頂点に立ち、全国に駒を進めた。まさにこの日以来の神宮で大暴れした。ふるさとで初心に帰る。プロ入り後も帰省すれば、東京・板橋の母校へ。前田三夫監督にあいさつは欠かさないという。「グラウンドで練習していけよ」と声を掛けられても固辞。名将も「1人で、家の近くで練習しているようだね」と目を細めていた。

 捕手は孤独だ。自らの指先のリードが勝敗を左右する。能見とのバッテリー。8日にはヤクルト山田に初球の内寄り直球を強振され、被弾していた。同じ失敗を繰り返さない。外角変化球を駆使しながら、丁寧な配球で痛打を許さなかった。攻守で存在感を発揮し、育成契約から昇格翌月の月間MVPがグッと近づいてきた。【酒井俊作】