プレーバック日刊スポーツ! 過去の9月21日付紙面を振り返ります。1994年の1面(東京版)は、イチローのシーズン200安打達成を伝えています。

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<オリックス6-5ロッテ>◇1994年9月20日◇神戸

 オリックス・イチロー外野手(20=鈴木一朗)が20日行われたロッテ24回戦(神戸)6回裏第3打席で、園川から右翼越えの二塁打を放ち、日本球界初のシーズン200安打を達成した。

 この日大台まであと「3」としていたイチローは1、3回に中前安打を放ち大記録に王手をかけていた。同選手は14日の日本ハム戦で1950年(昭25)藤村富美男(阪神=故人)のシーズン191安打(140試合制)を抜き、前人未到の記録を更新、残るは「4割」へのチャレンジとなった。

 もう、敵も味方も関係ない。二塁ベース上で記念のプレートを持ち、両手を掲げて声援にこたえるイチローに、ロッテの遊撃手南渕が、二塁手五十嵐が歩み寄って握手を求めた。9月20日、午後7時44分40秒、前人未到の200安打達成。グリーンスタジアム神戸は敵・味方を超え、1万5000人のファンと選手が一体となって快挙を祝った。

 あと「3」で迎えたこの試合、得意のロッテ園川から連続中前打で王手。そして、6回の3打席目に外角の129キロのシュート(本人はフォーク)を右翼越えの二塁打。リーチ一発で決めた。勝負強いイチローらしい。「やっぱりうれしかったですよ。スッとしました」と満面に笑みを浮かべた。

 お立ち台では「みなさんのおかげでここまで来れました。ありがとうございます」と真っ先にファンへ頭を下げた。これまで、史上最速100安打、4割、69試合連続出塁、185安打、192安打など数々の日本記録を作ってきたが、いずれもビジター球場だった。だから、200安打はなんとしても地元で達成したかった。「ホームのGS神戸で記念のヒットを打ててよかったですよ」と心地よさそうに汗をぬぐった。

 ここ4試合で4安打。連日の取材攻勢でイチローはいつの間にかプレッシャーにさいなまれていた。「これだけ言われると、どうしても意識してしまいますよ」。

 イチローは、19日深夜、愛工大名電高時代の恩師・中村豪野球部監督(52)に電話を入れた。「マスコミの取材がすごくて、大変なんです」と珍しく弱気な教え子に「でもな、弱いやつは相手にしてくれんぞ」と元気づけたという。

 イチローは食事の好き嫌いが激しかった。高校時代、野球部の合宿所での食事で嫌いなものが出ると、先輩の目を盗んではそばにいた深谷篤さん(現法大3年)に、テーブルの下からこっそりと渡し、食べてもらっていたという。一見、どんなときにもマイペース男だが、プレッシャーも感じるし、好き嫌いもある。ユニホームを脱げばごく普通の20歳なのだ。

 成し遂げた200本の価値を「まだ、わかんないです」と言う。次の目標は4割? バース(阪神)の残した3割8分9厘のシーズン最高打率? 「210本。打率はどうでもいい。安打数を求めるのは精神的に苦しむのが嫌だから」と笑う。5打席目に今季144本目シングルヒット(通算201安打)を放ち、新井打撃コーチの持つシーズン最多記録に並んでも「あっ、そうなんですか」とニヤリ。高校時代「宇宙人」と呼ばれた若者は、わずかプロ3年目でバットマンの最高峰を極めた。だが、さらに安打を積み上げる仕事もあるし、4割、日本最高打率更新もある。イチローのベースボール・ドリームは、まだまだ終わらない。

 ★後援会振る舞い酒

 イチローの後援会も200本安打に盛り上がった。愛知県西春日井郡の馬上豊(ばじょう・ゆたか)一朗会事務局長・堂脇豊さんが経営するすし店には、後援会のメンバーや報道陣など20人以上が詰めかけてテレビ観戦。今日21日はすし店で祝賀会を開く。四斗樽(だる)を開けてオードブルを用意。後援会だけでなく、一般ファンにも無料で振る舞う。

 ★日産が高級車贈呈

 イチローに、日産自動車から高級車インフィニティQ45(約600万円)が贈られた。200安打達成後に贈呈式が予定されていたが、いきなり3本の安打でクリアし、試合終了後、女性プレゼンターからイチローにゴールドキーが手渡された。同車は、イチローが以前から欲しがっていたもので「できればシルバーのがいいな」と楽しみにしている。イチローにはひと足早い200安打のプレゼントとなった。

 ★データセンター

 ▼イチローが今季6度目の4安打固め打ちで、通算安打を201本とした。イチローの201安打の内訳は単打144本、二塁打40本、三塁打5本、本塁打12本。単打144本は1987年(昭62)新井(近鉄)に並ぶシーズン最多記録で、二塁打を40本以上打ったのは78年松原(大洋=45本)以来16年ぶり8人目だ(最多は56年山内の47本)。200本目のヒットは園川から。この日の3の3で対園川は18打数13安打、打率7割2分2厘。13安打は渡辺久(西武)の11本を抜いて最多、7割2分2厘も対前田(ロッテ)ら3人の6割を抑えて最高打率と、イチローにとっては大のお得意さまだ。現在、イチローの打率は3割9分3厘だが、対園川を除いた打率は3割8分1厘。園川のおかげで86年バース(阪神)のシーズン最高打率3割8分9厘も更新できそうになってきた。

 ★大リーグでは

 米大リーグでは試合数が多いこともあって、シーズン200安打達成者は数え切れない。最多は1920年にブラウンズのジョージ・シスラーが154試合で記録した257。戦後ではウェード・ボッグス(ヤンキース)がレッドソックス時代の85年に162試合で打った240が最高である。200安打の最多経験者は、4256安打の通算最多を誇るピート・ローズ(レッズなど)で、73年の230を筆頭に、10度も達成。

 ◆イチロー(本名・鈴木一朗=すずき・いちろう) 愛工大名電高からドラフト4位で1992年(平4)に入団。走、攻、守のバランスが取れた外野手として注目され、1年目に打率3割6分6厘でウエスタン・リーグの首位打者を獲得。ジュニア・オールスター戦では代打本塁打して最高殊勲選手に選ばれた。レギュラーに定着した今季はオールスター戦にも初出場。独特の一本足打法で安打を積み重ね、69試合連続出塁、シーズン通算192安打のプロ野球新記録を達成した。180センチ、70キロ。愛知県出身。

※記録と表記は当時のもの