長いトンネルを抜け、Vロードを切り開いた。日本ハム有原航平投手(24)が6回2失点の力投で、優勝マジック6を点灯させた。直近の7登板で白星なしで自身6連敗中と不振を極めていたが、大一番で復活。執念の100球で7安打も、8三振で要所を締めた。7月22日オリックス戦以来となる62日ぶりの白星で、チームトップの11勝目。一部周囲の反対の声を押し切り、信頼して送り出した栗山監督の期待に応えた。

 苦悩を一掃して、やっと戦いの輪にカムバックした。大役を果たした有原が、声を弾ませて一息ついた。「本当に、うれしいという気持ちが一番。大事な試合だと思っていました」。ハイタッチの列に並ぶと、温かい空気に満たされた。栗山監督に頭をたたかれ、投手リーダー格の宮西から肩を抱かれた。「必死でした。勝つことが大切でしたから」。必勝を課された試練を、クリアした。

 闇に迷い込んでいた。7月22日オリックス戦でリーグ10勝一番乗りを果たしたが突如、低迷した。以降、7登板未勝利で6連敗。序盤で崩れ、立て直せないパターン。優勝争い佳境で水を差していた。今回の直接対決2連戦で増井、高梨ら安定感ある他候補を推薦する意見もあった。栗山監督が押し切って投入した。「お前の前半戦の活躍があったから、ここまで来た。好きにやってくれ」。

 開き直り、大仕事をした。今季22試合目で、初めて捕手を市川から大野へ変更。本領発揮のきっかけを与えたい、ベンチワークにも応えた。1回に中村晃に先制ソロを浴びたが「1点なら」と、こらえた。4回無死二塁のピンチでは長谷川から、すべてフォークを決め球に3者連続三振で無失点。前夜、快投した大谷に「有原さん、つなぎましたよ」と送り出され、62日ぶりの白星で続いた。

 ほろ苦い記憶の雪辱もした。連敗の起点になった7月29日ソフトバンク戦。8回途中5失点で降板すると、荒れた。三塁側ベンチ裏の壁をキックで破壊。2年目で初めて物に八つ当たりした。「我を失った」。心中を察したレアードが、壁をテープで補修し、そこに「Arihara」とサイン。笑いに変えてくれた。修繕費を払い、平身低頭で謝罪に回った有原の傷心を和らげる粋な計らいだった。

 見守ってくれた指揮官、仲間へ、御礼の100球の力投。大谷と双璧の太い先発の柱が舞い戻った。役者がそろった。リアルに大逆転Vへのゴールテープが見えた。【高山通史】