プレーバック日刊スポーツ! 過去の11月15日付紙面を振り返ります。2002年の3面(東京版)は、日米野球第4戦、全米のバリー・ボンズ外野手の逆転満塁ホームランの活躍でした。

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<日米野球:全日本5-6全米>◇第4戦◇14日◇札幌ドーム

 また打った。全米の主砲、バリー・ボンズ外野手(38=ジャイアンツ)がチームに初勝利をもたらす逆転満塁ホームランを放った。2−4で迎えた6回表2死満塁。石井(ヤクルト)の投じた内角速球を振り抜き右翼席にグランドスラムを運んだ。親善試合の2発を含め今シリーズ5本目の1発はチームの連敗を3で止め、シリーズ負け越しを阻止。もちろんこの試合のMVPに選ばれた。

 2点を追う6回2死満塁。欲しいのは満塁本塁打だった。打席にボンズが立つ。原監督が「ボンズ殺し」に指名したマウンド上の左腕・石井をにらみつける。集中力を高めた時、頭に浮かぶのは大リーガーだった父ボビーの最初の教えだ。「投手をスローモーションにしろ」。

 どんなフォームの投手でも同じように「スローモーション」をイメージすれば、自分のタイミングに持ち込める。簡単なことではない。が、初めてバットを握った子供のころから、イメージしてきたボンズにはそれができる。

 石井は3日前の第2戦で初対決して一ゴロに倒れた。しかし「すでに対戦していたので自分なりに攻略法を持つことができた」と、1度上げた右足を再度上げ直す変則モーションは頭の中で「スロー」に解析済みだった。あとは父からもらった第2の教えをイメージするだけだ。「投球を左手で捕球しろ」。

 左打席で左手で捕球するように打つにはポイントは限りなく体に近づけなければならない。だから、ボールが来るまで上半身は絶対に突っ込まない。初球スライダーと2球目の直球が外角に外れたのを同じタイミングで見逃した。そして3球目の内角直球を捕らえた。右中間に飛び込む140 メートル 逆転満塁弾。家訓のようにしつけられた2つの「父の教え」を30年以上も守り、イメージしているから直球も変化球も同じタイミングで打てるのだ。

 おなじみの神に感謝するポーズで生還したボンズをエクスタイン、イチロー、ウィリアムズの豪華メンバーが本塁付近で囲んだ。「勝つためにも大きな1発だったね」。チームの4連敗の危機を救った。

 90年に初来日以来、日米野球11号。「ファンのために全球場で打ちたかった」と言うように、全4球場で本塁打。特に札幌に全米オールスターが来たのは34年以来、68年ぶり。主砲は714本塁打のベーブ・ルースだった。日米野球の最多本塁打はそのルースの持つ13本。札幌で世界一の1発を見せつけたボンズは21世紀のルースになった。 選手として来日するのは今年限りと公言している。それでも「メジャー引退後に日本でプレーするつもりはないのか?」の質問が飛んだ。「引退は42か43歳ぐらいになる。その時は子供が高校生だから家族とゆっくりしたいよ」。ファンに期待以上の夢を見せるスラッガーが、ささやかな夢を語った。

※記録と表記は当時のもの