サプライズで締めた。侍ジャパン大谷翔平投手(22)が驚異のパワーを誇示する仰天二塁打を放った。来年3月の第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を見据えたオランダとの強化試合の最終戦。6点を追う7回に代打で放った打球が、東京ドームの天井の隙間へ吸い込まれた。規格外の飛距離がアダとなり、特別ルールで二塁打に。前夜の一撃同様に、珍打でこの回に同点とする猛攻に火を付けた。2戦連続でタイブレークの延長10回、鈴木誠也外野手(22)の満塁弾で激闘を制した。

 快音とともに舞った白球が「神隠し」にあった。大谷が、反撃のボルテージを上げた。6点を追う大劣勢の7回、先頭打者で代打で投入された。右腕フロラヌスの2ボールからの3球目だった。「バッティングカウントだったので」。迷いなく、内角高めボールの直球に反応した。強振から放たれた打球は舞って、上空へ伸びる。「飛距離は十分かな。あとは(ファウルに)切れるかどうか」。右翼への特大弾と確信したが突如、視界から消えた。

 みんなが屋根を見上げ、息をのんだ。打球が天井の切れ目へ、吸い込まれた。サプライズの当事者は目撃し、冷静だった。「見えてました。入ったところ(切れ目)はインフィールド。恐らく二塁打だと思った」。事態を瞬時に判断できていたが、ダイヤモンドを1周してジャッジを待った。審判団が確認し、東京ドームの特別ルールによる二塁打へ。打球方向からファウルの可能性もあるが、160メートル以上の飛距離が確実だった。衝撃が口火になり、6点ビハインドから同点。逆転勝ちへつながる、神懸かった一打だった。

 風向きを変えた。14年日米野球、昨年11月のプレミア12は投手で招集。打者では今回は初だった。3月の台湾との強化試合に投手で招集を打診されたが、開幕前の調整が難しい時期で辞退した。代案で、球団と協議して打者では出場可能な意向は伝えた。侍ジャパン側は見送りの判断。球団を通じ「打者としては評価をしていない」という趣旨の返答があったという。

 夢をかなえる下地ができた。今回の強化試合は全4試合出場で1本塁打を含む11打数5安打。2戦連続で試合の流れを一振りで変えた。総仕上げの天井弾で、最高のインパクトを残した。小久保監督らの評価も大きく変えただろう。大谷は「二刀流」でWBCに出場し、世界一奪回の野望を秘める。「いつでも活躍できるように、しっかりやりたい」。侍ジャパン最高の刺客へ-。大谷が投打の使命を双肩に乗せ、世界へ向かう。【高山通史】

 ◆松井の天井二塁打 東京ドームでは松井秀喜(巨人)が02年7月18日横浜戦で天井裏に消える二塁打を放っている。7回裏無死、フルスイングした打球は右翼方向へグングン上がり「感触は良かったよ」。20号と誰もが疑わなかったが、打球は落ちてこない。ボールは地上から約55メートルの高さにある天井の隙間にすっぽり入り、グラウンドルールにより二塁打となった。ボールは天井の布を伝って転がったとみえ、バックスクリーン上部の天井裏で発見され同20日に回収。史上初の天井二塁打ということもあり、松井のサイン入りで野球体育博物館に収蔵された。松井は翌年からヤンキースに移籍した。

 ◆東京ドームの特別グラウンドルール 打球が、フェア地域内にある天井の穴または隙間に入り込んだ場合、あるいは懸垂物に挟まった場合は、ボールデッドとし、打者および走者には投球当時を基準にして2個の安全進塁権が与えられる。(原文まま)

 ◆MLBの「消えたボール」 1984年5月4日のツインズ-アスレチックス戦。ア軍デーブ・キングマンが、東京ドームのモデルにもなったツ軍本拠地メトロドーム(当時)の天井に打ち込んだ。排水用の穴に入り込み二塁打判定。ボールは後日回収され、米野球殿堂博物館に寄贈された。