台湾に到着するや、ノドをやられた。無理はない。空気は乾燥していて、曇り空の台中市内をバイクで走るおばちゃんやお兄ちゃんはマスクをしている。黒、水色、ピンク…。日本には見られない色使いは「ザ・海外」なのだが、なぜか、あまり異国だと感じない。台湾は親日家が多いと聞くが、中部のこの都市にも、そんな顔がかいま見える。

 前夜、街を歩いているとカラオケの歌声が漏れてきた。たどたどしい「天城越え」や「津軽海峡冬景色」が聞こえてくる。街の人も日本語が上手だ。食事中、隣に居合わせた男女と雑談になった。「林威助(リン・ウェイツゥ)は有名な選手です。鄭凱文(ジェン・カイウン)も知っています。結構、試合に出ていますね」なんて言ってくる。ともに、かつては阪神に在籍した。いまは台湾プロ野球で活躍。その勇名を現地で伝え聞くと、阪神時代に接していた立場からすれば、うれしくなる。

 そこかしこに日本の匂いが漂っているのだ。台中駅前には「宮原眼科」がある。なぜだか観光客が群がりアイスクリームを頬張っていた。戦前に日本人の宮原医師が開院した眼科の建物で、スイーツ店に様変わりしているのだ。同行する東辰弥2軍マネジャーも「朝、ランニングしていたら高知ギョーザの店を見つけましたよ」と声をはずませる。街に日本が溶け込んでいて、妙に居心地がいい。

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれ。京都市で育ち、早大卒業後の03年入社。阪神担当や広島担当を経験。今年11月から遊軍。趣味は温泉めぐり。