ショートは「遊撃手」と書く。縦横無尽に動き回る「遊撃隊」が由来なのだという。それほど、運動量が多い。名手として鳴らした内野守備走塁コーチの久慈照嘉は新人だった92年を思い起こす。シーズン直前、監督の中村勝広に「開幕から行くから、しっかり守れよ」と言われたという。打撃への注文はなかった。何を置いても守備力が問われるポジションだ。1年間、守りきる難しさは経験した者でなければ分からない。

 久慈は言う。「いまと違って地方での試合が多かったからね。暑い時期は特にキツイんだ。エラーが2つ3つ続くと前に出ようと心で思っていても、体が動かない」。1年目は121試合に出場して17失策。「投手に申し訳ない。だから、練習するんだ」。シーズン通して守れるか。鳥谷とレギュラー争いする22歳の北條史也は昨季、遊撃で試合出場を重ねたのは7月末以降なので、まさに、この点がポイントになるだろう。

 紅白戦の3回1死一、二塁。糸原の三遊間への深いゴロを逆シングルで捕ろうとしたが失敗し、失策を犯してしまう。失点の引き金になり、久慈も「あれはイージー。投手もゲッツーだと思っている」と手厳しかった。昨季から1歩目がテーマだった。あらためて課題が浮き彫りになった。

 いまも、北條が心に刻む言葉がある。「お前、球際が軽いわ。守備でも打撃でも、球際が大事」。昨年5月末、先発しても二塁守備で失策を重ね、スタメン機会を失った。金本監督のひと言がズシリと響いた。北條は、こう振り返る。

 「そこからです。エラーを連発していたときは捕るのもこわごわで、打球が飛んできても足が止まったりしていた。球際の強さを思えば1球1球、集中します。打つのも守るのも、すべてつながっていく。野球に対する姿勢が変わりました」

 球際こそ、レギュラーをつかみ取る条件だろう。

 16日の韓国サムスン戦でも外野へ抜けそうなゴロを2球、好捕してアウトにしたが、やはり、久慈は手厳しかった。「いっぱいいっぱいにしか見えないでしょ? 余裕を持ってアウトにできるくらいにならないと。俺たちはそれを求めている」。花形のポジションだ。理想は高い。(敬称略)