24日、高知・春野での西武1軍キャンプ。全体練習終了後、栗山巧外野手(33)はバックネット前に陣取ると、居残りでバッティングティーを使った打撃練習を始めた。

 この「置きティー打撃」は、栗山がいつも取り組んでいる練習だが、この日は少し様子が違った。

 足元をならしながらスタンスを決め、深く息を吐きながらゆっくりと構えに入る。そして、やや瞳が透けて見えるサングラス越しに、仮想するマウンド方向をにらみ付ける。

 呼吸が少し荒くなる。

 額に汗がにじむ。

 歯を食いしばる。

 やがて目線がイメージの中の投球を追い、バットが一閃(いっせん)する。ティーをわずかに揺らしただけで、ボールを前方のネットに深く突き刺した。

 1球を打つたび、ルーティーンが始まってから30秒近くもかける。殺気すら感じる置きティー打撃を、栗山は「明日から対外試合が始まるタイミングでもあるので、実戦をイメージしました」と説明を始めた。

 「マシン相手だと、130キロなら130キロ、カーブならカーブと、ずっと同じような投球を打つことになる。打撃投手相手でも、その人の持っている球速、球種の枠の中でしか投げてこない。でも置きティーは違います。球速は0キロ。でもかえって、自由にイメージすることができる。頭の中で、チャップマンの170キロを打つことだってできます」

 牧田が投じる80キロ台のスローカーブから、大谷の165キロの剛球まで。さらにはペナント終盤の負けられない試合、日本シリーズの行方を分ける打席と、極度の緊張を強いられる舞台まで設けることができる。

 バッティングティーの向こうには、無限に広がるイメージの世界がある。だからこそ、栗山は置きティー打撃練習にこだわる。

 「まあ、それだけのことです。たいしたことじゃない」。サラリと言うと、栗山は居残り組の若手にまじり、宿舎に戻るチームバスに乗り込んだ。