午後2時46分。東北から遠く離れた香川・丸亀でも被災者への追悼の意を表すサイレンが鳴り響いた。同時に、右翼席の楽天ファンが「頑張ろう、頑張ろう、東北」と声を張り上げた。日本ハムとのオープン戦、1点を追う7回先頭だった。楽天銀次内野手(29)が打席に入った。「あの声援は聞こえていました」。自然に力がこもった。2ボールからの3球目。低めの速球に対して下半身でグッと踏ん張り、右前にはじき返した。

 試合前には、約1分間黙とうが行われた。「もう1度、東北に笑顔を。忘れてはいけない日。チームにとってもこの日は、大切な日」と目を閉じ、心を奮い立たせていた。岩手出身で、選手会長も務める男。「この日限定だけじゃない。被災された方のためにも、常に思っていなければいけない」と、3打席目でマークした初安打で応えてみせた。

 13年の日本一を知るメンバーだからこそ、あの時に感じた東北の人の笑顔が忘れられない。「チーム一丸となって、選手、社員、楽天イーグルスの全員が、みなさんに笑顔を届けられるように頑張りたい」と、使命感も背負う。

 東北に再び、笑顔を-。全ては、この言葉のためにある。東日本大震災から6年が経過した。復興は、まだ途中段階。銀次は、「(あの時に比べて)変わったと思います。変わっていてほしい」と希望を込めて、言葉を絞り出した。自分に出来ること-。バットを振り続け、チームの勝利に貢献していくことに全力を尽くす。【栗田尚樹】