右膝関節炎から再起を期す阪神糸井嘉男外野手(35)が、鮮烈のタテジマデビューを飾った。古巣オリックス戦に3番DHでFA移籍後初出場。第1打席で中前打を決めた。阪神へのFA移籍選手の初打席初安打は金本や片岡、新井らも打てなかったあいさつ代わりの1本。金本監督は「興味がない」と笑顔で全幅の信頼を強調し、12年ぶりVへ糸井劇場が本格開演した。

 糸井は阪神に来ても、やはり糸井だった。体には18・44メートルの間合いが染み込んでいる。1回2死走者なしで迎えた移籍後の初打席。左腕松葉に対し、ファウルを挟みながらフルカウントになった。7球目だ。外角低めへのスライダーに全身がグッと止まる。巧みなバットさばきで中前へ。節目の初安打だが、これしきで喜ぶはずがない。

 「膝のことがあった。やっとここまで回復した、としかない。久々の打席。真っすぐが速かったです。変化球を拾えたのは良かった」

 本番になれば無数の安打を重ねなければいけないのだ。プレー直後、当然のように淡々と感想を話した。1月の自主トレ中に右膝の違和感を覚えた。「右膝関節炎」で2月の沖縄・宜野座キャンプも別メニュー。まだ試運転に過ぎない。この日は速球に振り遅れ、ファウルになった。3回無死一、二塁も高めスライダーに空振り三振。デビュー戦は2打数1安打だ。オープン戦の残り9試合に同行して開幕モードに仕上げる。

 「まだまだ実戦でやりたいこともある。この調子で徐々に守れたら守りにつけるよう、やっていきます。今日は打席に入れて試合の中に入れて良かった」

 鉄人金本と同じ「王道」を歩み、開幕に向かう。球団関係者は「とらえようによっては、2月に本隊に入らなかったのは良かったかもしれない」と言う。はやる心を抑える金本監督の手綱さばきは配慮だろう。指揮官自身の経験がある。広島からFAで移籍直後の03年2月、キャンプ序盤に右ふくらはぎを負傷。期間中、別メニューで調整した。関係者は「外から『阪神』がどんなチームか、見ることができる。本隊でプレーしていれば、嫌でも注目される」と、金本1年目を思い起こす。過熱しがちな環境から、あえて遠ざけた。