阪神にFA移籍した糸井嘉男外野手(35)が開幕戦から猛打賞を決めた。適時打2本を放ち、天敵の広島ジョンソンKOに大きく貢献した。金本知憲監督(48)が「初めての恋人」と熱烈アタックして移籍した新戦力がいきなり機能し、昨季のリーグ王者に猛攻を浴びせた。

 糸井がほえた。1点リードの3回だ。無死一、二塁の場面で打席が巡ってきた。1ストライクから広島ジョンソンの2球目。外角高め138キロカットボールを逆らわずにつかまえた。ライナー性の打球は左中間を真っ二つに抜けて、2者が生還。「虎の糸井」として初安打&初タイムリーを記録した。

 「ここで追加点取るんだという強い気持ちで打席に入りました。うまくとらえることができた」

 一塁を蹴って余裕で二塁ベースに到達した背番号7は、「見たか!」と言わんばかりに三塁側の阪神ベンチを指さす。そして腹の底から「雄たけび」を上げた。

 4回には1死三塁から右翼線への適時打で3打点目をマーク。7回にも左前打を放ち、いきなりの猛打賞デビューだ。

 記念すべき虎1試合目も自然体だった。この日の広島は朝から雨が降っていた。試合前の練習は室内練習場。試合開始も30分遅れた。開幕独特の緊張感に、スッキリしない天候。糸井自身もナーバスになっているかと思いきや、報道陣からのあいさつに、まさかの「チャオ!」。イタリア語でご機嫌にあいさつした。

 投手だった京都・宮津高校時代に憧れた選手は、現育成コーチの福原だった。当時の糸井の持ち球は直球とカーブだけ。最速143キロの直球を力いっぱい投げ込む。福原の全身全霊を1球に込めるスタイルに自分をダブらせた。プロ野球の試合を初めて生で見たのは甲子園球場。自然と聖地でプレーすることに憧れた。

 人気球団に向けられる厳しい目。それは十分に理解していた。それでも厳しい環境に身を置く決断を下した。FA移籍から4カ月。開幕戦のヒーローインタビューを受けた糸井は力強く言った。

 「1戦1戦、死ぬ気で戦うだけです」

 キャンプイン直前の右膝関節炎を乗り越えて虎の仲間入りを果たした広島の夜。気温5度のマツダスタジアム。白い息が誇らしげに見えた。【桝井聡】

 ▼阪神に新加入の糸井が猛打賞。糸井の開幕戦猛打賞はオリックス時代の14年日本ハム戦以来で2度目。セ、パ両リーグにまたがって開幕戦で猛打賞は大下(東映、広島)竹之内(西鉄、阪神)大杉(東映、ヤクルト)清水(巨人、西武)城島(ダイエー、阪神)稲葉(ヤクルト、日本ハム)西岡(ロッテ、阪神)平野(阪神、オリックス)に次ぎ9人目。