糸井の1発は、感動の勝利を届けた。阪神の勝ち投手となったのは、桑原謙太朗投手(31)だ。7回無死一、二塁のピンチで登板。1死二、三塁まで攻められたが、ここで踏ん張ったことが糸井の劇弾につながった。桑原の勝利は10年以来7年ぶり。虎が投打で一丸となるきっかけをつかんだ。

 「虎のリベラ」が絶望的なピンチを救った。同点の7回無死一、二塁。昨季1度も1軍で登板機会のなかった桑原の出番だ。犠打で1死二、三塁となり、左の代打大松が出てきても首脳陣の判断は続投だ。大松は内角高めの“真っスラ”で浅い右飛。代打鵜久森にも再び“真っスラ”で遊ゴロに仕留める。ゼロで切り抜けた瞬間、桑原はグラブをポーンとたたいた。

 「ピンチのところでいったので、なんとか抑えられたのは良かったです」

 直後に糸井が決勝3ラン。前所属オリックスからさらに前、横浜(現DeNA)時代の10年4月4日ヤクルト戦以来、実に2558日ぶりの白星が転がりこんだ。「勝ちは特にないです。(ボールは)もらいました」と、ばつの悪そうな表情をみせた。

 最大の武器は、ナチュラルに直球がスライダーする「真っスラ」だ。それを軸に打者を抑えるスタイルは金本監督が以前、米メジャー史上最多の652セーブを挙げた元ヤンキースの守護神マリアノ・リベラのようと称したほど。その真っスラは偶然の産物だった。「大学の時にきれいなストレートを投げたかったけど、うまく投げられなかった」。糸を引くような直球を投げたい一心で試行錯誤を続ける中、たまたま投じた1球が指にかかり鋭く曲がった。それが真っスラだった。

 これで開幕5試合目で早くも4試合目の登板。指揮官も試合後、「(大松への続投は)桑原は左打者の方が打ちにくいですから。桑原で十分抑えてくれると僕は思っていた。本当に大きな戦力ですね」と絶賛だった。「決め球も今後課題になる。それができはじめたらクローザーができるわ」と、満面の笑みで潜在能力の高さを表現した。それでも桑原は「続けられるように頑張ります」と浮かれる様子はなし。崖っぷちからはい上がった男だから、心の強さに頼りたくなる。【梶本長之】

 ◆桑原謙太朗(くわはら・けんたろう)1985年(昭60)10月29日、三重県生まれ。津田学園-奈良産大を経て、07年大学・社会人ドラフト3巡目で横浜入団。10年オフにオリックスへ移籍。14年オフにトレードで阪神移籍。184センチ、84キロ。右投げ右打ち。