1発も打てまっせ! 阪神上本博紀内野手(30)が8回無死、勝ち越しとなる1号ソロを放った。ただ、その前の打席ではバント失敗。値千金の一撃は汚名返上の1発にもなった。つなぎも意外性も兼ね備える伏兵が、大きな仕事をやってのけた。

 値千金のアーチは伏兵から放たれた。同点で迎えた8回。上本が豪快にバットを振り抜いた。巨人森福の甘く入った121キロスライダー。白球は左翼席の最前席に飛び込んだ。決勝の1号ソロだ。

 「まさかという感じで、自分でもビックリした。何が起こったか分からない感じで…。試合が終わって、ああ、ホームランを打ったんだという感じです」

 打った本人も驚く一打は、気持ちの強さから生まれた。6回の打席でバント失敗。その直後に投手陣がつかまり、逆転を許した。流れは最悪だった。ミスを犯した上本は、こう思った。

 「悪くてもくじけずにやろう、とチーム(の方針で)でなっている。引きずることはあるけど、その中で負けずにやっていきたい」

 この姿勢は金本監督が望むものだ。「陰にこもって、どうしようというよりは、バントの失敗を取り返すんだという気持ちでやってほしい」。汚名返上の1発を指揮官は高く評価した。

 背番号を00に変えて出直しを図った今年が、プロ9年目。173センチ、65キロの小柄な体で厳しい世界を生き抜く。そのすべの1つとして、「洞察力」がある。中学時代に所属した軟式チーム・松永ヤンキースの柳生監督は言う。「とにかく投手の癖を見抜くのがうまかった。それをプレーに生かせる」。研究熱心な野球少年だった。グラウンドを見つめる時は、あまりまばたきをしなかったという。一瞬たりとも見逃さない。だからこそ、広陵-早大とエリート街道を歩み、巨人戦という大舞台でも勝負強さを発揮する。

 北條の2発に中堅の上本が負けじと決勝弾を放つ。最高のシナリオで今季初のG倒が実現した。「結果なので、いい時も悪い時もある。しっかりやるだけです」。この日の1発で、打率をちょうど3割に乗せた。攻撃型な2番が金本阪神に活力を与える。【山川智之】