広島の守護神今村が2死満塁をしのぐと、スタンドを真っ赤に染めた広島ファンが互いに抱き合った。

 高らかに応援歌を歌い、5月4日以来の勝ちどきを上げた。打っても打っても取られる展開。ストレスを抱えながらも、からした声は届いた。やっとの思いで、1点のリードを守りきった。22歳の4番鈴木誠也のヒーローインタビューに耳を傾け、また、喜び合った。節目の20勝目は、ファンも全員野球に加わっていた。

 ようやくトンネルを抜けた。チームにとっても、生みの苦しみを味わうには十分過ぎた。4連敗だったが、それ以上に長く、深かった。ファンの大歓声を浴びながら、緒方監督は鈴木を一通りほめた後「誠也の活躍はもちろんだけど、野手陣みんなでね。初回からいい攻撃をしてくれたから」と語った。

 頼もしかった。1回に田中が勇気を与える二塁打で出塁。菊池は自分を犠牲にする右打ちで好機を演出した。1死三塁で丸が右越え適時二塁打。鈴木も適時二塁打で続いた。エルドレッドが右前打でつなぎ、新井は犠飛で確実に追加点を奪った。9回には丸が貴重な6号ソロ。歯を食いしばって打線をつなげた。守っても、ピンチを招くたびに田中が、菊池が、安部が、新井が代わる代わるマウンドに声を掛けに行った。退いた選手もベンチで口に手を添え、声をからした。

 打撃コーチも懸命だった。試合前の打撃練習では石井打撃コーチが“願掛け”をした。仮想ヤクルト山中として、アンダースローで打撃投手を務めた。スタメン野手全員に投げ「東出(打撃コーチ)から験を担いで行きますか、と言われたから。やれることはやる」。わずかでも、足しになれば-。4戦4勝と打った昨季と同じ入り方でアシストした。

 長かった。6日の阪神戦(甲子園)では0-9からひっくり返される大逆転劇を食らった。悔し涙を流す選手も、1人ではなかったという。紛らわすように、素振りに時間をさいた選手もいた。不器用にあがいて、懸命に勝った。今季35試合目での20勝に到達。これは優勝した昨季の36試合目より1試合早い。このまま一丸で、まずはトンネルを完全に抜けたい。【池本泰尚】