ヤクルト伝統の「再生工場」に、またも玄人好みの名前が刻まれた。2番手で登板した近藤一樹投手(33)がゲーム中盤の要所で好投。広島戦の勝ち越しを運んだ。2点リードの6回1死一、二塁。真中監督をして「一番しびれる場面」でエース石川の後を受けた。「流れの中で大事なところと思った。準備はできていた」。前の打席で145メートルの特大ホームランを放っていたエルドレッドに対した。

 入りから4球続けて内角に真っすぐ。うち3球がインハイ。「強いボールで押すのが自分のスタイル。崩さないように」。起こしに起こしてからのスライダーは、振って当然のアウトローに収めた。新井も封じて「結果はたまたまです」。続けた「自分の立場は分かっている。『点を取られてはいけない』と思って投げている」に、この世界で16年も生きてきた強さがあった。

 オリックス時代に4年続けて右肘を手術。育成選手も経験し、昨年の夏にトレードで移籍した。コーチとして当時を知る西本聖氏(60=日刊スポーツ評論家)は、思うように投げられなくともひたむきだった近藤が忘れられない。「真面目さと、何とかやってやろうという強い気持ち。毎日、嫌な顔一つせず厳しい下半身の強化をし、ビデオを見ていた」。二人三脚で研究した、グラブの使い方で制球力を上げる技術。エルドレッドを振らせたスライダーにしっかりと生きていた。移籍初ホールド、今季10イニング無失点。坂口、鵜久森、大松。そして近藤。ヤクルトには努力が再び花開く風土がある。【宮下敬至】