虎が甲子園開幕を歴史的な勝利で飾った。梅野隆太郎捕手(27)が、史上69人、74度目のサイクル安打の大暴れ。最大5点のビハインドをはね返す逆転勝利に導いた。三塁打、右前打、三ゴロで迎えた8回に、2度打席が巡ってきて本塁打&右中間二塁打。2日に左足薬指を骨折。まだ完治していない“骨折男”のサイクル安打というミラクル劇で、虎が勝率5割に戻した。

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8回、痛みをこらえて必死に踏ん張った梅野に、2度目の打席が回ってきた。2死一、二塁。チームは最大5点のビハインドをはね返していた。山崎の2球目を捉えた打球は右中間へ。適時二塁打となった。史上69人目、74度目のサイクル安打。本拠開幕の舞台で、左足薬指を骨折したまま出場する扇の要が輝いた。

「(サイクル安打は)全く気がつかなかった。まさか自分が達成するとは思っていなかったので。花束を持っている人もいて、ベンチがざわついているなと」

ミラクル大逆転劇への道も切り開くサイクル安打だった。2回の先制点は、梅野の右翼線付近への飛球をソトが捕球できず。梅野は痛む足もかえりみず、三塁まで激走していた。記録は当初、失策だったが「三塁打」に変更される一幕で、快挙への道を踏み出した。4回には同点に追いつく好機を広げる右前打。そして、2点を追う8回の第1打席で「思い切っていくだけでした」と、左中間スタンドに1号ソロをたたき込んだ。

8回の1発はあきらめない思いを体現したもの。傷だらけの体でも、心は折れない男だ。2日に左足薬指を骨折。テーピングでガチガチに固定してスパイクを履き、試合に臨んでいる。右手首を負傷した昨季終盤、実はその故障は「疲労骨折」だった。だが、秋季キャンプにも参加。「(プレーを)やりながら治したい」とグラウンドに立ち続けていた。選手会長として、捕手として、虎を背負って守り続ける気概の表れだった。

左足薬指骨折が判明後は4試合で17打数10安打、打率5割8分8厘の活躍だ。何より巨人戦で3連戦3連敗を食らったチームを、3勝1敗と立て直した。もちろん、打席では思うように踏ん張りがきかないが「力が伝わらない。でも力みがあったけど、その物足りなさがちょうどマッチしている」という。守っては「梅ちゃんバズーカ」で2度の盗塁阻止。矢野監督も「骨折しながら、ほんとに自分が出るんだという気持ちでやってくれている」とたたえた。

傷だらけの体で感じる勝利の味。出場を続ける男が、虎浮上のけん引役だ。絶対に骨折り損にはしない。【真柴健】

 

▼梅野が18年8月16日平田(中日)以来プロ野球69人、74度目のサイクル安打を達成した。阪神では48、50年藤村富、49年金田、79年真弓、03年桧山、16年福留に次いで6人、7度目。梅野は8番捕手で出場。捕手のサイクル安打は50年門前(大洋)89年田村(日本ハム)04年細川(西武)に次いで4人目となり、8番打者は89年田村、04年細川に次いで3人目。セ・リーグでは初めて8番打者がサイクル安打を記録した。ちなみに、9番打者のサイクル安打はまだいない。