【07年2月26日付・日刊スポーツ】

 かつて年俸5億円を稼ぎ、通算319本塁打を放っている男が400万円から再出発する。前オリックスの中村紀洋内野手(33)が25日、中日と育成選手契約を結んだ。年俸は昨季2億円の1/50となる400万円で、背番号は「205」。中村紀は「野球小僧として頑張りたい」と決意を語った。中日の支配下選手は69人で、残り枠は1つ。中村紀は登録期限の6月末までに1軍昇格を目指す。お金も住む部屋も公式戦出場資格もないまま、中日の2軍で猛アピールを続ける覚悟だ。

 中村紀が、ないないづくしの再出発を切る。15日から10日間受けていた中日の入団テストに合格し、育成選手として入団が決定。「やっとユニホームを着られるだけでうれしい。野球小僧として頑張りたい」と意気込んだ。野球を続けることができるという晴れやかな顔の裏側には、これまでに経験してこなかった苦難が待ち受けている。

 まず、お金がない。年俸400万円、月給約33万円はサラリーマンの平均給与より少ない。中村紀は「お金じゃないですから」と話したが、今年の所得税は昨季年俸の2億円をベースに40%程度を納めることが予想される。「税金が心配で。蓄えないですよ。何が何でも1軍に上がらないといけない」。たとえ1軍昇格しても、1軍最低保障の1500万円までしか手にできないのが現実だ。

 成績に応じた出来高はない。オリックスとの交渉がこじれた反省から、すでに代理人の茂木立仁弁護士(39)との関係を解消。テスト中に「契約は自分が1人でやります。誰かに任せるということはないです」と話していたように、この日は北谷球場で西川社長と話し、潔く統一契約書にサイン。付帯条件は一切、要求しなかったという。

 そんな中村紀を“住居問題”が追い打ちをかける。今後は兵庫・芦屋の自宅を離れ、単身赴任を予定。ひとまず名古屋市内の合宿所に入ることを想定していた。だが、現時点で「昇竜館」は満室の状態。33歳は「パッと考えたのは寮だけど…。満室?

 うそ。部屋ないの?

 痛いなあ…」と頭を抱えた。

 背番号は205。「今まで5番だっただろう」という落合監督の意見で決まった。中日の育成選手は200番台が慣例。下1ケタの「5」は落合監督の指導を受けて132打点で打点王(01年)に輝くなど、全盛期の近鉄時代の番号。そこにはオレ流の復活への期待が込められている。ぎこちなく205の文字をサインした中村紀は「慣れてないのでね」と苦笑いした。

 中村紀は、落合監督からは「2軍で成績を残して、何とかはい上がってくれ」と声を掛けられたという。「これからが勝負だと思います。あとは僕自身が結果を出すこと。アピールを続けたい」。02年から3年連続で年俸5億円を稼ぎ、メジャーも経験した男が、2軍で汗にまみれながら再出発する。【益田一弘】