97年9月2日のノーヒットノーランから約16年。石井一久の引退決意の報道に、感慨深くなった。その大記録達成の瞬間を、記者として目の当たりにした。左腕から150キロを超える剛速球が放たれる。記者席から見ていても迫力があった。「うなりをあげる」速球とはこのことだ、と思ったものだ。

 当時、担当記者としてではなく、助っ人の立場でヤクルトの取材を手伝っていた。そんな自分にも、石井一は気さくに接してくれた。「今日は、新しい服を着てますね。どこで買ったんですか」。なにげないところに「観察眼」も感じられた。おおらかで、どこかのんびりした雰囲気があるが、頭の回転が早く、周囲に気を配れたことが、日米で長年、一線で活躍できた要因ではないだろうか。

 恵まれた身体能力、速球という武器とは別に、ひと味違った感覚や経験を持った指導者として、今度はその姿を見てみたい。【栗原弘明】