<阪神4-3巨人>◇27日◇甲子園

 無表情だった。だが、自然と一塁ベースに駆ける足取りは軽く速くなった。2試合スタメン落ちで出番すらなかった阪神今岡が1点差に迫る代打タイムリー。打率は1割5分9厘と、まだまだ本来の姿ではないが、トンネル脱出のキッカケになりうる1本。結果が出たことが何よりの収穫だった。

 「あの場面というより、代打なら5回ぐらいから(ベンチの)後ろで(バットを)振って準備しているからね。今日は結果が1番。『良かったね』と書いといてよ」

 2点を追う8回だった。先頭の赤星が相手エラーで三塁に進んだ。ここで岡田監督から代打のコールを受けた。初球、巨人山口のスライダーを豪快に振った。バットに当たりはしなかったが、久々の思い切り良いスイングに、虎党から拍手が起きた。続く2球目。147キロストレートを、今度はコンパクトに右前に流し打った。06年9月29日中日戦(甲子園)以来の代打タイムリーだった。

 試合前、広沢打撃コーチは厳しい言葉で発奮を促していた。巨人先発は左腕内海。5番は前夜のヒーロー葛城ではなく、右のフォードか今岡に絞られていた。「5番?

 それはオレの口から言いにくいなあ。チーム全体が『今岡を出してください』という雰囲気になれば、われわれもバックアップしやすいんだけどねえ」。

 守備、走塁でガッツが前面に出るタイプではない。ひょうひょうと練習をこなす姿はチームの輪を乱す原因にもなりかねない、と危ぐしての発言だった。最終的にこの日の5番は、フォードが選ばれた。今岡とは対照的に、誰よりも早くグラウンドで志願のフリー打撃を30分間。周囲を納得させる行動をとっていた新外国人を岡田監督は選んでいた。

 1本のタイムリーで5番を任されるほど、甘い世界でないことは誰よりも今岡が分かっている。大事なのは結果を積み重ねていくこと。歓喜の輪での笑顔もそこそこに「良かったよ」と語るにとどめた。【片山善弘】