<広島2-1日本ハム>◇18日◇広島◇4回戦

 よっ!

 ケンさん。広島2年目右腕の前田健太投手(20)が、無安打無得点の期待を抱かせる投球でプロ初勝利を挙げた。完投こそならなかったが、スローカーブを駆使して8回の先頭打者に打たれるまで日本ハム打線を無安打に抑えた。6勝を挙げてチームを引っ張ってきたベテラン高橋建投手(39)が首の張りで戦線を離脱したが、もう1人のケンさんが救世主となった。

 左翼前に落ちるライナーを見届けると、マウンドの背番号18は少し頭を落としたあと、苦笑いを浮かべた。101球目。8回の先頭稲田に141キロを完ぺきにはじき返された。

 「いい感じで打たれたので仕方ないです」。無安打無得点の夢はついえたが、前田健はすぐに気持ちを切り替えた。2死一、二塁と広がったピンチに工藤をチェンジアップで空振り三振に切ると「おっしゃ!」と叫んでグラブをたたいた。

 9回は永川にマウンドを譲り、初勝利の瞬間はベンチで迎えた。「初めまして、前田健太です。最高にうれしいです。まわりの皆さんに助けられて勝ちました」。初めてのお立ち台で初々しい声を張り上げた。

 楽ではなかった。2回に先頭から連続四球。ただ、ここで相手のバントミス、スクイズ失敗とラッキーが続いた。いや、ただの幸運ではない。スクイズの場面が投手・前田健太としての真骨頂だった。

 2回1死一、三塁。打者鶴岡の初球だ。三塁走者スレッジがスタートを切る影が視界に入った。「高めに外せば失敗もある」。とっさに高めに外し、フライにすると自ら捕って素早く三塁に送球した。「あのゲッツーでだいぶ楽になりました」。流れを引き寄せるビッグプレーだった。

 あこがれの選手はPL学園の先輩、桑田真澄。「打って走れて守れる」姿は幼少時から理想の選手像だった。高校通算27本塁打で守備のうまさから「野手でもプロにいける」と評価されたセンスを発揮し、自らを助けた。この日は110キロ前後のカーブと、フォーク代わりのチェンジアップを完ぺきに制球。日本ハム打線を寄せ付けなかった。

 大阪・忠岡町出身。オリックス清原を生んだ岸和田市と同じく「だんじり」で知られる。生後すぐに父治茂さん(44)に連れられ、中学3年まで毎年参加。今でも帰省のたびにタオルなどだんじりグッズを寮に持って帰る。野球センスに熱い闘争本能を備える男はマウンドで燃えていた。

 「(楽天)田中とか同級生に出遅れていたので悔しかった。まだまだ追いついていないですけど、とりあえず1勝できて良かった」。まだ20歳。ハンカチ世代のケンさんが広島に出現した。【柏原誠】