<広島2-1阪神>◇26日◇マツダスタジアム

 救世主と呼ぶのは少し大げさかもしれない。でも、そう感じさせる投球だった。台湾から今季新加入の助っ人、ジェン・カイウン投手(20=台湾文化大)が、広島戦で初登板初先発し、6回を投げて5安打無失点に抑えた。直球は最速142キロ止まりだったが、ツーシーム、カットボールを駆使して、バットの芯に当てさせない。チームはジェン降板後に逆転負けしたが、長いシーズンを見据えれば、ジェン登場は虎党にとってこれ以上ない朗報。今は借金1だが、これからムチをビシビシ入れていきまっせ。

 来日初先発、初勝利こそ逃したものの、ジェンの表情には充実感が漂っていた。「緊張はまったくしなかった。初めての登板にしては、満足できる内容だったと思う」。6回5安打無失点。わずか1点のリードを守ったまま、“無傷”で中継ぎ陣にバトンを渡した。直後の7回に逆転され、来日初白星は次回持ち越しとなったが、しっかり戦力になるところを証明した。

 初回。1死から連打を浴び、いきなり一、二塁のピンチを迎えた。打席には4番シーボル。3球連続ボールで不利な状況を作ってしまったが、慌てない。連続ファウルでフルカウントに持ち込むと、最後は外角へ沈むカットボールでバットの芯をずらし、三ゴロ併殺打。無失点にしのいだ。「あそこを0点で乗り切れたことで、その後をいい調子で投げられた」。最速は142キロ。決して打者を圧倒する球ではない。それでも初回シーボルとの対戦に象徴されるように、ツーシーム、カットボールなど微妙に球を変化させる技術がある。バットの芯を外すことで決定打を許さず、6個の0をスコアボードに記してみせた。

 まだまだ若干20歳。日本で言う「佑ちゃん世代」でプロでは楽天田中が同学年にあたる。ただし、田中以外では、1軍で活躍する選手は見当たらない。言葉も通じない、異国の地で生活するだけでも精神的タフさが求められるというのに、ジェンは幼少のころからあこがれていた日本プロ野球界に1人で飛び込み、開幕から1カ月も経たないうちに1軍切符をつかんでみせた。

 もちろん、平穏無事にこの日のマウンドにたどり着いたわけではない。入団直後の3月中旬。チームのオープン戦に帯同し、開幕1軍入りを目指したが、吐き気など体調不良を訴え、帰阪。そのまま2軍で開幕を迎えた。思いも寄らないトラブルに巻き込まれながらも、周囲には一切弱音を吐かなかったという。一つの目標に全力で立ち向かう。それはジェンの投球スタイルに通ずるものがある。この日は3度も得点圏に走者を背負ったが、顔色一つ変えず、確実にアウトを重ねていった。その姿はまさに堂々たるものだった。

 「ピンチもあったけど、尻上がりによくなった。次も先発でね」。ベンチで見守った真弓監督も、ジェンの快投に及第点を与えた。先発陣が順調に回れば、5月2日からの巨人3連戦(東京ドーム)で先発する可能性もあり、ジェンは「次は勝利につながるように頑張る」と目を輝かせた。【石田泰隆】

 [2009年4月27日12時12分

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