<西武5-4オリックス>◇11日◇西武ドーム

 西武ナインの思いは1つだった。延長11回、サヨナラ本塁打を放った片岡易之内野手(26)は、お立ち台で目を潤ませた。オリックス加藤から左翼席に運び「水田さんのために打ちたいと思ってました」としみじみ言った。試合前に阪神へのトレードが発表された水田圭介内野手(28)とプレーする最後の試合。二塁レギュラーをかけてしのぎを削ったライバルに「最後にいいプレゼントができた」と別れを惜しむように、肩を組み合って離さなかった。

 まるで、引退試合さながらの光景だった。今季4度目のサヨナラ勝ち。いつものお祭りムードは一瞬で、水田を囲んで輪ができ、すすり泣く声も聞こえた。目を真っ赤にした中島は「同期入団で高卒では僕1人だけだったので、すごくかわいがってもらった」と、7回に同点打を放って恩返し。試合前の円陣では、大阪桐蔭の後輩にあたる中村が「水田さんのために勝ちましょう」と声を張り上げた。“花道”を飾ろうと結束し、普段以上の集中力を発揮して延長戦を制した。

 他球団へのトレード発表が行われた選手の試合出場は極めて珍しいが、渡辺監督の温情采配で実現した。「トレードで出されるイメージをなくしたかった。阪神に必要とされている」と激励の意味もこめ、9回に代走で出場させた。一打サヨナラという1死二、三塁の三塁走者。中島の三塁ライナーにギャンブルスタートを切り、戻れずに併殺となった水田は「あそこでホームにかえれば最高だったけど、そういう星の下には生まれてなかったんで」と自虐的に笑いを誘った。

 最後は異例の胴上げまで行われ、水田は3度宙を舞った。「引退でもないのに…今日が一番の思い出になりました」と声をつまらせた。温かい西武ならではの涙の卒業式。チームが1つにまとまった時の強さを再確認できた“サヨナラ劇場”だった。【柴田猛夫】

 [2009年7月12日8時20分

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