<横浜4-7中日>◇9日◇横浜

 「暴れ馬」は地震にも負けなかった。中日中田賢一投手(27)が横浜打線を4点に抑え、今季2勝目。6回には震度3の地震が起こり、試合も2分間中断したが、コントロールは崩れなかった。最終回には3ランを浴び、プロ初の無四球完投まであと1人のところで降板となったが、約1カ月ぶりに白星をつかんだ。これでチームは2年連続で横浜戦勝ち越し。首位巨人とのゲーム差も2・5に保った。

 突然襲ってきた地震にも、頭の中は冷静だった。6回、先頭森笠の打席で、スタジアム全体が突如、横に揺れ始めた。ベンチでもナインが揺れに気付き始める中、中田はそのまま投球。森笠を二ゴロに打ち取った。だが、揺れはまだ収まらない。1分以上続く揺れに、杉永球審がタイムを宣告。中田は表情を変えることなく、マウンド上で揺れが収まるのをじっと待った。

 「アウトを取って、初めて気づきました。試合中に地震が起きたのは初めてです。でも、大丈夫でした」。落合監督も、球審の元に歩み寄り、メッセージを伝えたほど。だが、それほどの想定外な出来事にも、中田のコントロールが崩れることはなかった。

 8回までに与えた失点は、2回に石川に浴びた1発のみ。この日は、長年課題と言われ続けた制球力がさえ渡り「きょうは真っすぐも良かった。ストライクをどんどんとろうという気持ちで投げました」。0-2の不利なボールカウントを招くことも一度もなかった。

 完投を目前にした9回には佐伯に3ランを被弾。ライトスタンド後方でフィナーレを迎えていた横浜港の花火大会に花を添えてしまった。岩瀬の緊急リリーフを仰ぐ“激震”。「最後は真ん中にいってしまいました。きょうは全然ヒーローじゃないんですけど…」。うれし恥ずかしのヒーローインタビューとなったが、今季初の無四球には「しっかりまたやっていきたい」と、力強く答えた。

 勝つためには、どんな調整だってする男だ。先週末の神宮球場。翌日に登板を控えていた中田は、ルーティーンのメニューをこなすと、外野のフェンス越しに、いきなり逆立ちを始めた。「なんか肩がはまっていない感じがして。いつもするわけじゃないけど、ストレッチみたいなものですよ」。同点で降板した前回は勝ち星がつかなかったが、この日は勝利の女神が微笑んだ。

 落合監督も「きょうぐらい投げられれば十分じゃないか」と、合格点を与える出来。8回まで抜群の制球力を誇った中田の快投に、「暴れ馬」の名付け親も、この日ばかりは目を細めた。無四球完投のチャンスは逃したが、それ以上に大きなものを得た。この日つかんだ自信は、そう簡単には揺るがない。【福岡吉央】

 [2009年8月10日12時25分

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