<ソフトバンク4-3オリックス>◇3日◇福岡ヤフードーム

 ソフトバンク田上秀則捕手(29)が起死回生の1発でチームを救った。3点を追う4回2死一、二塁から左翼席中段へ同点3ラン。パ・リーグ捕手としては05年ソフトバンク城島(現マリナーズ=24本)以来の20号到達、ホークス捕手史上4人目の快挙にもなった。この1発で勢いに乗り、4-3でオリックスに勝利、3カードぶりの勝ち越しを決めた。この日敗れた首位日本ハムとのゲーム差を4・5と縮めた。

 20発目は狙いを定め、豪快に決めた。3点を追う4回裏2死一、二塁。田上が「高い球だったら思いっきり振っていこうと思った」と、オリックス伊原の投じた3球目を迷いなく振り抜いた。真ん中高めの直球は、一瞬で左翼席中段へ突き刺さった。同点3ラン。「完ぺき」。パ・リーグでは05年城島(24本)以来となる大台アーチを、寡黙な男が珍しく自画自賛した。

 名実ともにホークスの正捕手になった。今季は4月22日の日本ハム戦で初めて捕手としてスタメン出場。5月10日の西武戦からは、1試合を除き、先発マスクを任されている。この日の1発も捕手としての読みが生きた。第1打席は四球。「ストライクが欲しいから直球」とカウント1-1から直球だけを待ち、きっちり仕留めた。「観察しているからできること。まだまだね。30本打てる力を持っている」と、秋山監督は賛辞を惜しまなかった。

 地獄を見た強さが田上にはある。02年に中日に入団も、05年の秋に戦力外通告を受けた。「事務所に来てくれと言われ、何となく行ったら来季は契約しないと言われた。頭の中が真っ白になった」。25歳だった。本気で野球を辞めようと思った。数日後大好きな野球は辞められないと気づいた。

 ソフトバンクの入団テストを受けた。折しも、当時正捕手だった城島がFAでメジャー移籍したことで入団決定。「城島さんが、ああなってなかったら今の自分はない」。8月上旬に痛めた背筋はまだ万全ではない。「痛いかゆいは言ってられん」。プロ8年目でようやくつかんだ正捕手の座は、絶対に譲らない。

 バットだけでなく捕手としての信頼も揺るぎないものになりつつある。前日2日に今季先発初勝利を挙げた高橋秀は「いつもいいタイミングで声をかけてくれるので助かる」。この日、2番手で初勝利をつかんだ大場も「田上さんの強気のリードに助けられた」と感謝した。

 ヒーローとなったこの日も田上は、試合後1時間近く資料室にこもった。「城島さんと同じ事をしても、城島さんと同じ成績は残せない。自分をつくりあげていくしかない」。あくなき向上心がブレることはない。首位とは4・5ゲーム差。この「扇の要」がいる限り、逆転Vはまだ夢物語ではない。

 [2009年9月4日11時37分

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