<阪神5-4広島>◇20日◇甲子園

 阪神真弓明信監督(57)の勝負手が、劇的なサヨナラ勝ちを呼び込んだ。広島戦は2-2で延長戦に突入。10回に2点勝ち越されたが、その裏林の1号ソロで1点差。続く関本が中前打で出塁すると、指揮官は定石を無視して強攻策を選択。ここで、鳥谷が11号2ランをたたき込んだ。延長戦の逆転サヨナラ弾は球団史上初。ミラクル采配がミラクル弾を呼び、破竹の4連勝だ。首位巨人も勝ち、ゲーム差は0・5のままだが、今日こそセ界の頂点に躍り出る。

 地獄から天国に昇った。奇跡だ。本塁打が出ればサヨナラ-。希望的観測を抱いた、虎党の妄想が現実になった。3球続けての外角勝負。狙い球は決めていた。上野の外角直球をこすり上げた。センターポールの旗が真横になびいていた。浜風に乗っかった打球は大きく流され、左翼ポール際に飛び込んだ。大興奮に包まれたスタジアム。大歓声を体中に浴びて、クールな男が両手を挙げてホームベースへ飛び込んだ。

 鳥谷

 打てのサインだったので、つなぐ気持ちで打席に入りました。本当に苦しい試合だったのでよかったです。

 自身3度目のサヨナラ弾だった。林威助の本塁打で1点差となり、息を吹き返した虎は代打関本の中前打でイケイケムードだ。チームのために-。無死一塁となり、不振にあえぐ1番打者の頭にはバントもよぎった。だが、真弓監督の指示は「打て!」だ。「相手も引っ張らせたくない。外をなんとかと思っていた。逆方向に、三遊間に打つぐらいの気持ちだった」。

 真弓監督の勝負手だった。鳥谷は、前日19日まで16打数無安打。この日もその打席まで3三振を含む4打数無安打。「調子は落とした感じはあるけど、あそこは信頼というか、何とかしてくれないとね」。強攻策が裏目に出れば、自身に批判が集中することもわかっていた。得点圏打率3割3分7厘が示す、勝負強さにかけた。大勝負が奏功し「すごい勝ち方やね。めったにない。まさかサヨナラとは思わなかった」と目を細めた。

 鳥谷も、勝ちにつながる一打がうれしかった。0・5ゲーム差で激突した13日の巨人戦(甲子園)。3点を追う延長12回、バックスクリーンへ飛び込む2ランで1点差まで迫った。だが、勝てずに気持ちは曇った。この日は心から喜べた。

 今月2日に第3子が生まれた。「子どもは関係ないですよ。チームが勝ってくれたら十分です」。私情をグラウンドに持ち込まないが、素顔は愛車にアニメ「アンパンマン」のDVDを積む子煩悩なパパ。家族にしか見せないようなしわくちゃな笑みが、この劇的な夜にはこぼれていた。

 首位巨人もサヨナラ勝ちで、0・5ゲーム差は変わらないが、選手会長はお立ち台で約束した。「明日勝って、首位に立ったら最後まで守りたいと思います」。今日21日の前半最終戦で、80日ぶりの首位に立つ。【鎌田真一郎】

 [2010年7月21日11時1分

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