<ヤクルト9-3広島>◇29日◇神宮

 最年少のスピードスターが誕生した。ヤクルト由規投手(20)が自己最速を1キロ上回る、日本人最速タイの158キロを2度マーク。9安打3失点ながらプロ3年目での初完投勝利も達成し、自己最多6勝目を挙げた。チームの4連勝に貢献してみせた。

 手にしたウイニングボールには、9回を投げ抜いた“重み”が詰まっていた。お立ち台に上がった由規の語尾が強まった。「やったぞ!

 という感じです」と自己最多の6勝目は、プロ入り初完投で挙げた会心の白星だった。

 日本人最速タイとなる158キロの直球が、自らを戒めた。1回2死、広瀬への6球目が158キロをマークした。それでも手元を離れた瞬間にボールと分かる球。3回2死、再び広瀬への4球目も158キロを計測したが、ボールになった。「スピードが出たかなぁ、と思って振り返ったら出てましたね。でも、リキんでいたし、いいボールじゃない。149、150キロでも、空振りが取れるようなキレのあるボールじゃないといけない」と修正した。

 苦い経験がある。仙台育英高時代、甲子園で156キロをマークしたときだった。「スピードを意識するとダメ。意識しないようにしてもしちゃうんです。甲子園ではそれで失敗したんです。意識しないようにしないと」と言うように、調子を上げたのは4回以降だった。「160キロ?

 伸ばせるならそれに越したことはないけど、あまりとらわれずに目指します」と、スピードに対する“由規哲学”を実践し、結果に結びつけた。

 昨年とは一変した教育方針が、由規を成長させた。昨年、何度もマメをつぶし、長いイニングを投げられなかった。「痛いだろうけど、このまま甘やかしていたら、あいつがかわいそう」と話す伊藤投手コーチのもと、キャンプでの投げ込みではマメがつぶれ、指先から血が流れても容赦はなかった。痛みのあまり、患部がボールの縫い目にかからないように投げたこともあったが、すべてチェックされ、甘えることは許されなかった。シーズンに入っても、練習後にネットピッチングをさせるなど、フォーム矯正と指先強化の練習は続いた。

 指先だけでなく、精神的にも強くなった。「今でもマメが気になるときはあるけど、気にしても仕方ない。破れるときは破れるんです」とコメント。「今日は無我夢中でした。初完投?

 自信になります。でも反省点はたくさんある。点を取ってもらった次の回の先頭打者に四球を出したり、バントも失敗しましたし」と話す姿に、甘えはない。プロ入り3年目での初完投勝利。それでも遅く感じてしまうのも、潜在能力が高い証拠。一皮むけた由規の快投は、まだ始まったばかりだ。【小島信行】

 [2010年7月30日8時38分

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