<中日1-0阪神>◇22日◇ナゴヤドーム

 優勝が見えた!

 落合竜が球団新記録の今季12度目のサヨナラ勝ちで、優勝マジック点灯に王手をかけた。0-0で迎えた9回、落合博満監督(56)が2度もベンチを立ち上がって打者に耳打ち。4年ぶりのV奪回へ燃える指揮官が執念で相手失策による勝利をもぎ取った。2位浮上した巨人とは2・5ゲーム差。23日も勝てば、ついにマジック3(巨人が敗れれば2)が点灯する。25日の最短Vへ向け、加速した。

 神がかり的な幕切れだった。0-0で迎えた9回1死満塁。代打・堂上剛裕外野手(25)は阪神の守護神・藤川球の剛速球に懸命に食らいついた。カウント2-0からの4球目。初めてフォークがきた。泳ぎながらも、右手1本でバットに当てた。打球は力なく一塁前へ転がった。ところが、ブラゼルが本塁へまさかの悪送球。球団新記録となる今季12度目のサヨナラ勝ちが決まった。

 「三振だけはしないようにと思っていました。何とか当てられたので、あとは神頼み。ミスってくれと思って走りました」。仲間たちに、もみくちゃにされた“ヒーロー”は信じられないという表情で振り返った。阪神に引導を渡し、マジック点灯へ王手をかける大きな1勝。たぐり寄せたのは落合監督の執念の「ささやき」だった。

 9回、打席に向かう堂上剛をベンチ前に呼び戻して耳打ちした。「ストライクだけ思い切っていけ!」。この言葉で、堂上剛はストライクゾーンを狭め、三振を避ける意識を高めた。そして、タイミングを外されたフォークに食らいついたことでドラマが生まれた。

 また、無死一塁からは打席に向かう森野に対してささやいた。「自分だけで決めようと思うなよ」。さらに、打席に向かおうとする森野を追いかけて、もうひと言。「打てよ!」。ナゴヤドーム一塁側ベンチの左端。普段はこの“定位置”を動かず、不動をモットーにしている指揮官が、居ても立ってもいられないというように何度も腰を上げた。悲願のリーグ優勝を大きく引き寄せる1勝を目の前に、必死だった。

 「よく持ちこたえました。投手ということだ。でも、まあ、勝てる要素というのはなかったね」。試合後、落合監督は深く息をついた。阪神先発久保の前に8回までわずか3安打。先にピンチを迎えたのは山井の方だった。8回2死二塁で4番新井。ここで指揮官と森ヘッドコーチの“直感”が働いた。好投山井から迷わず浅尾へスイッチ。右飛でピンチを脱した。リーグ最強の投手力がサヨナラの流れをつくった。

 「あそこまでだろう。(山井は)新井には変に(タイミングが)合っていた。あそこで(浅尾を)使わずに点取られたら、逆に使えなくなっていた。まあ、決めてくれたのはブラゼルだよ。堂上じゃない」。そう語った落合監督の目は真っ赤に充血していた。本拠地11連勝で虎に引導を渡し、マジック点灯は目前だ。長かった阪神、巨人とのデッドヒートも、ついに決着が見えてきた。【鈴木忠平】

 [2010年9月23日9時3分

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