開幕へGO砲!

 阪神新井貴浩内野手(34)に2011年の「第1号」が飛び出した。30日、中日との練習試合で初回に逆転3ラン。キャンプ中の紅白戦も含めた実戦1号がようやく出た。プロ野球の「開幕問題」で抱え込んだ不安も、長い不振も吹き飛ばすような豪快なアーチだった。

 滞空時間の長い、アーチストらしい弾道だった。初回1死一、三塁。甘く内寄りに入ってきた124キロの変化球に新井のバットが反応した。独特の大きなフォロースルーに乗せられた打球は左翼席に悠々と到達した。

 観客のいない静かな京セラドームに阪神ナインの喜びの声が響く。ゆっくりとベースを回って戻ってきた主砲を迎えたのは公式戦同様、ナインが1列に並んだ歓待の儀式だ。背番号25も笑顔で応じる。みんなが待っていた。新井もこの1本を待っていた。

 「よかったんじゃないですかね。点を取られた後でしたし。試合前の練習でも感じがよくなってきましたから」。

 前日29日の中日戦では実戦25打席ぶり安打。「兆しが出てきた」と語った自らの言葉に、本塁打という最高の結果で応じた。どんなに不振が長引こうと、4番起用の考えに一点の曇りも示さなかった真弓監督は「間違いなく、よくなってきている。ゲームに集中できているのが一番でしょう」と口元を緩めた。

 試合前、ロッカールームに坂井オーナーの訪問を受けた。「大変やったな。ご苦労さん」。労組プロ野球選手会の会長は選手の代表として開幕問題に取り組み、経営者側と戦った。騒動の終結を迎え、落ち着きを取り戻した会長の胸に響く出来事だった。

 騒動は一段落したが、被災地の復興を心から願う新井は、これからが本当の戦いと思っている。「僕らにできることは、真剣に野球をする姿をお見せすること」。思いは強い。前日29日にはサッカー日本代表とJリーグ選抜のチャリティーマッチをテレビで見た。訴えるものがあった。

 「野球とかサッカーという区別ではなく、プロのスポーツ選手として、少しでも元気になってもらえるようにやっていくのが使命と思っている」。

 心配された“本業”は間違いなく順調だ。プロ野球にとって、そして新井にとって重要な意味を持つシーズンへ。難産の末に生まれた1本のアーチは特別な光を放っていた。