<楽天0-2西武>◇6日◇Kスタ宮城

 西武の「所沢のサブマリン」こと「牧やん」が今季の新人完封一番乗りだ。ドラフト2位、牧田和久投手(26)が星野楽天を6安打に抑え、4度目の登板で、待望のプロ初勝利をゲットした。これまでの登板は、勝利目前にしての血マメ降板や、打線の援護に恵まれなかった。日本ハム斎藤でも出来なかったシャットアウトを成し遂げた。

 小さな小さなガッツポーズだった。待ちこがれた瞬間だったはずなのに。初登板から耐え忍ぶこと31回2/3。牧田がやっと勝てた。「心の中ではうれしかったけど、まだ喜ぶところじゃない。日本一になって喜びたい」。見据える目標ははるか先にある。派手なアクションを封印したのは、照れ隠しじゃなかった。

 無欲だった。「先制点を与えないことだけ。ゼロに抑えようなんて思ってなかった」と言うように、力で押した。128球中77球が直球。この日の最速は134キロだったが、チームメートに「下手投げのパワーピッチャー」と評される右腕。直球をいかに速く見せるかにこだわる。7回の先頭山崎。フルカウントからの7球目をクイックモーションで外角高めへ投げ込んだ。空振り三振を喫したベテランは、ベンチでコーチらにどうやって投げたか確認するほど面食らっていた。25年目の大砲を4打数無安打3三振と翻弄(ほんろう)。渡辺監督は「心身ともに充実した、ルーキーらしからぬピッチング」と褒めちぎった。

 人の意見に耳を傾ける素直さと、それをものにするのみ込みの早さが昔からあった。プロ入り当初、即戦力の社会人経由とはいえ、課題がないわけではなかった。緩急をつけるスローカーブ、セットからのクイックモーション、けん制…。ただ、教わればすぐにできるようになった。それは野球人生最大の転機でも同じ。高校1年の秋に下手投げに転向すると、直後の練習試合では沈まない直球だけで10個以上の三振を奪った。

 アンダースローになった理由は「同じ学年に140キロを投げるピッチャーがいたから」。“引き立て役”のような意味もあったかもしれないが、そこからエースになった。西武に入ると、ドラフト1位には大石がいた。キャンプから先んじて結果を残してきたが、注目度は雲泥の差。開幕ローテ入りを果たしても、いきなり現実は変わらない。「大石と一緒に街を歩いても、自分だけ気づかれないんですよ」と笑う。

 4月15日のソフトバンク戦。完封ペースから8回途中に血マメで降板して新人勝利一番乗りを逃した。結果として日本ハム斎藤らに白星で先は越されたが、完封1号は譲らなかった。無名の存在。はい上がってプロの門をたたいた時は、26歳になっていた。「牧やん」のニックネームもどこか似合ってしまうオールドルーキー。遅ればせながら、球筋のように、新人王レースに浮かび上がってきた。【亀山泰宏】