<ソフトバンク5-3オリックス>◇11日◇福岡ヤフードーム

 逆方向へぐんぐん打球が伸びる。美しい放物線を描いたのは、ソフトバンク多村仁志外野手(34)だ。1点を追う6回2死二塁。朴賛浩の初球、ど真ん中の143キロに自然とバットが出た。右翼へ今季2号の逆転2ラン。普段はクールな男が、ガッツポーズを連発した。「今日は泣きませんよ。失投だったと思う。タイミングが合った。右方向へボールが飛ぶというのは調子がいい証拠。(本塁打に)びっくりしてます」と満面の笑みを見せた。

 開幕直後は打率1割台と不振に陥った。4日楽天戦ではお立ち台で思わず涙を流した。それほど試行錯誤した。フリー打撃でバスターを行い、打球をとらえるタイミングを確かめた。足を上げるフォームをすり足にも変えた。すべては本来の力を取り戻すためだった。4日、楽天戦前に藤井打撃コーチから「相手は多村という名前だけで怖さがあるんだから」と声をかけられ、力が抜けた。昨季は3割2分4厘、27本塁打、89打点でチームの3冠打者。自信を持って打席に立っていたことを思い出していた。

 統一球をものともしない1発だった。逆方向への打球が飛ばなくなったと言われる中「あえて、本塁打を狙いにいく時もある」と開幕前に宣言していた。練習から飛距離にこだわった。長距離砲としてのプライドもある。不振に陥っても。自分を見失わなかった。

 リーグ最多の8度目の逆転勝ちだ。昨季の逆転勝ちは、リーグ5番目の28度。カブレラ、内川らが加わり、激しくなったチーム内競争が勝負強さを呼んでいる。3連勝で単独首位に立った。【奈島宏樹】