<横浜6-4ソフトバンク>◇18日◇横浜

 希代のスラッガーが復活の雄たけびを上げた。横浜中村紀洋内野手(37)が2点を追う7回、新天地での初本塁打となる1号同点2ランをソフトバンク杉内から放った。5月25日に支配下選手登録され、8日に1軍昇格してから19打席目で飛び出した待望の1発は、5球団目のアーチ。4年ぶりの交流戦7勝目と最下位阻止を決める逆転勝利をもたらし、苦しむチームに強烈な新風を吹き込んだ。

 高く掲げた人さし指が「ノリ復活」の合図だった。高く浮いた杉内の直球をひっぱたき、大きな弧を描いた打球が左翼席へ消えていく。過去378本塁打を放ってきた中村が、喜びを抑えられないように小走りでダイヤモンドを駆け抜けた。ベンチ前では村田とがっちり抱き合い、右手で派手なガッツポーズも繰り出した。「泣きそうになった。危なかった。300何本も打ってきましたけど、この1本は一番忘れられないホームランになると思います」。昨年8月27日の西武戦以来、295日ぶりの1発に興奮は収まらなかった。

 天性の感覚は打席の中でよみがえらせた。2点を追う7回2死一塁での代打。1ボール2ストライクからの4球目をファウルすると、おもむろに右手のバッティンググローブを外してポケットにしまった。「何か感覚がおかしかった」。練習でも素手で打ち込み、感覚を取り戻そうと行っていた作業を打席の中でも試みた。高めの直球を完璧にとらえたのはその直後。「今までミスショットをしていた球。あれがとらえられたというのは少しずつ進歩している」という懐かしい手応えを手に取り戻した。

 チームに貴重な勝利を呼び込む1発となったことも喜びを倍増させた。6月8日に1軍昇格後、この打席までの打率は1割1分1厘。チームも勝利を挙げられず、期待の分だけ責任が大きく背中にのしかかった。だがこの劇的な1勝で、チームは交流戦6勝の壁を4年ぶりに越え、同じく4年ぶりの交流戦最下位阻止も確定した。「やっと1つ恩返しができた。結果を出さないとダメだと思ったので思い切って振った」と、お立ち台で初めてのヒーローの座を存分に味わった。

 尾花監督は「全盛期の本塁打みたいな感じだった。打った瞬間に確信した。控えに本塁打を打てる打者がいるというのは心強い」と大砲の大仕事に目を細めた。新天地での慣れない代打稼業は続くが「それが僕の仕事。あのボールに反応ができた。これからまた打席に立つのが楽しみになりました」と中村は確かな自信を取り戻した。

 天国と地獄を何度も味わい、またもやどん底からはい上がった37歳が、低迷脱出を目指す横浜の頼もしすぎる切り札となった。【大塚仁】