<中日2-1広島>◇5日◇ナゴヤドーム

 落合中日が、ついに首位ヤクルトをとらえた。広島のエース前田健に対し、大島洋平外野手(25)が3回に同点弾、8回にトニ・ブランコ内野手(30)が決勝弾と2発で沈めた。球界屈指の右腕を沈め、ゲーム差なしと肉薄。8月3日時点での最大10ゲーム差を2カ月間で詰めた。同監督の退任が9月22日に発表されてからの快進撃で、逆転Vがいよいよ現実味を帯びてきた。

 主砲にしか、4番にしかできない仕事だった。1-1で迎えた8回2死、ブランコは本塁打のイメージしか描いていなかった。そこへ、2ボールから前田健のカーブが高めにきた。「ガツッ!」という激しい衝突音とともに勝負は決まった。左翼席へ12号決勝ソロ。ブランコは高々とバットを放り投げ、前田健はガックリとひざに手をついた。「本塁打を狙っていました。なかなか、チャンスがなかったし、8回だったから大きなスイングをしようと思っていた」と得意げな表情を見せた。

 まだ、ブランコが右手中指骨折でリハビリ中だった8月3日、首位ヤクルトに今季最大10ゲーム差をつけられていた。「右手は痛いけど、考えないようにしている。死ぬか、生きるかのつもりでやっている。痛いと言っている時間はない」と悲壮な決意を明かした。バットとボールが衝突するたびに右手中指に衝撃が走る。毎試合後、指を氷で冷やし、プレーを続ける姿は今のチームを象徴している。

 勝利への伏線を引いたのは成長著しい若者だった。1回に先制された1点を追う展開、3回、先頭打者の大島は内角直球に完璧に反応した。際どいコースに対し、最短距離でバットを出すと打球は右翼線上を伸び、ポールを直撃した。「うまく内側からバットが出ました。インコースには苦しみましたが、今は打てているので前よりは意識しなくなりましたね」。自身、本拠地初アーチとなる3号ソロが流れを引き戻した。

 「今のまま動いてくれればいいんじゃないかな。うん」。落合博満監督(57)はこの日も3秒で会見場を後にした。実は指揮官のコメントを少なくしている理由は、選手の動き。つまりは、言うことなし-。身を粉にして役割を果たす主力と土壇場で成長ぶりを見せる若手。落合野球の集大成へと向かう勢いはどこにも止められそうにない。【鈴木忠平】