楽天星野仙一監督(64)が16日、野球人としての立場から激震続きの巨人について怒りをあらわにした。前日15日に2年契約で合意した原辰徳監督(53)について、桃井恒和オーナー兼社長(64)が来季V逸なら契約解除の方向を示したことを報道で知り「なぜ、こんなことが表に出てしまうんだ」と憤慨。現場を第一義としないフロント組の行動について「ユニホームを着ている人間を軽く見ている」と指摘した。混迷する球界の盟主に、重鎮が思いの丈をぶつけた。

 我慢の限界だった。来年V逸なら任期途中でも原監督の契約解除もある、という新聞記事を目にした星野監督は、「何だこれは。誰が言ってるんだ」と低い声で言った。阪神監督時代にしのぎを削った原監督は、球界のかわいい後輩であると同時に盟友でもある。続いたのは「さぁ、これから頑張る、っていう時期に…。辰徳だって勝負の世界で生きてるんだから、1年1年が勝負なんて、言われなくても分かってるはず。第一、フロントと密室で話すことだろう」で、至極正論だった。

 現場の長である監督の去就にかかわる話が、一連の騒動に紛れる形で、いとも簡単に扱われてしまった事実の重大性を鋭く突いた。

 星野監督

 監督、コーチはもちろん、選手もかわいそうだ。辰徳はグッと我慢しているだろう。選手たちは落ち着いて練習しようたって、大変だわな。

 なぜ、こんな事態が起こってしまうのか。

 星野監督

 ユニホームを着ている人間を、背広組が軽視しているからだ。最近の風潮としてあると思うんだ。夢をかなえた、というのはおこがましいかも知れないが。野球少年から、みんなそれぞれが、乗り越えて、ここまで来た人間なんだ。

 野球を心から愛し、寄り添って歩んでいる人生に誇りを持っている。今回の件だけではなく、今季は、中日が優勝争いの最中に落合監督の今季限りでの退団を発表。球団譲渡にからみ、横浜の尾花監督はシーズン終了後から「休養」を命じられている。同じ野球人として、ユニホームを冒涜(ぼうとく)されているような感覚がどうしても許せなかった。

 巨人という大きな組織が持つ骨太の強さは、身に染みて知っている。だから、今月11日の清武GMの会見から始まった騒動が信じられない。「オレの感覚だと絶対にないんだよな。プロに入って、巨人に勝つのは無理だわ、こりゃと思ったよ。選手の技術が高くて練習もよくする。カリスマのオーナーが統制し、かつ野球に深い知識と愛情を持っている。長い赤字の時代も通り抜けて、創成期から球界を支えてきた、伝統が持つ強さだ。巨人、阪神、中日はしっかりしないとダメなんだ」とよどみなかった。若い楽天を率い、チーム構築に腐心する真っ最中。高い地点を目指しているからこそ、揺らぐ盟主など見たくない。

 最後はこう言った。「今の野球少年だって同じのはず。子どもの夢、ファンの夢を壊しちゃいけない」。プロ野球に携わる人間は目線をどこに置くべきか。端的な回答が詰まっている。【宮下敬至】

 <桃井オーナー発言VTR>

 一連の“内紛”の状況説明と首脳陣契約問題で、15日に宮崎秋季キャンプを訪問。原監督と会談し、来季から2年契約で合意した。会談後、報道陣に囲まれ「来年V逸、3年連続V逸になったら、それはやっぱり責任を取らなきゃいけないよということも一緒に伝えました」と発言。「来季V逸=契約期間中でも契約解除」の方向であることを公言した。一方、渦中の清武GMに当面、編成業務を任せることにし、「ただ、心配はあるけどね」と付け加えた。