<パCSファイナルステージ:日本ハム4-2ソフトバンク>◇第3戦◇19日◇札幌ドーム

 ソフトバンク小久保裕紀内野手(41)が、19年間の現役生活にピリオドを打った。2-4の9回2死二塁で日本ハム武田久に遊飛に打ち取られ、CSファイナルステージ3連敗。アドバンテージを含めて0勝4敗となり、連続日本一の夢は消えた。試合後は両軍の手で6度宙に舞う涙の引退セレモニー。小久保が第2の人生を踏み出す。

 鼻の奥が熱い。感動屋の両目からブワッと涙がこぼれ出た。栗山監督、稲葉…。左翼にいた日本ハムナインが突然、右翼まで全力で駆けてきた。両軍によるサプライズ胴上げ。始まる前から、小久保は号泣だ。自分のテーマ曲SMAPの「ありがとう」が敵地に響く中、6度宙に舞った。

 「悔し涙ではなく、ありがとうという感謝の気持ちが湧き上がりました」。3万7000人から「小久保コール」を浴び、グラウンドに5秒間、頭を下げた。プロ19年目。最後もいつもの儀式で締めた。

 9回2死二塁の現役最終打席は、今季セーブ王の武田久が相手。「最後の最後まで真剣に戦えて良かった。正直、大きいのを狙ったけど」。結果はカウント1-1からスライダーを打ち上げて遊飛。最後の打者となったのも、不思議な巡り合わせだった。

 プロ人生。ブレずにいたのは「契約した球団の勝利のために力を尽くすこと」。行動、発言、すべてでチームを思った。一塁全力疾走しない選手を叱ったこともある。「泥臭くて結構。九州、福岡のチームらしくていい」。09年に主将に就任すると、さらに口うるさい存在に徹した。

 ユニホーム姿にこだわり、降板して帽子を脱いでいた新人武田に「まだ戦っている仲間、相手に対して失礼だぞ」と諭した。お立ち台で靴ひもをだらしなくほどいた選手に「プロは細かいところまで見られていると自覚した方がいい」とも。

 勝つという目的のため、チームが同じ方向を向く-。その姿勢が細部まで宿るチームが強いと信じた。8度の手術歴、400本塁打、2000安打、ベストナイン3回、ゴールデングラブ3回、日本シリーズMVP…。厳しい練習や金字塔ばかりが注目されるが、細部にこだわるプロだった。そんなプロの集合体なら、優勝に近づけると信じた。

 連続日本一の夢は散った。宿舎ホテルでのミーティング。秋山監督、王会長らに続き、主将・小久保として最後の訓示をした。「自分は巨人に行って、ホークスの伝統を再確認できた。伝統の良さを、みんなで話し合って見つけてほしい」。伝統とは引き継ぐものでなく、その瞬間、瞬間のプレーを通じてつくられるもの。後輩たちで発見し、強さを知ることを求めた。

 将来的に指導者として球界復帰する考えもあるが、当面は講演や野球教室に取り組む。自伝の執筆活動にも入る。「現役生活は大満足。第2の人生、人間、小久保裕紀を磨きながら頑張りたいです」。涙が乾いてもなお赤い目で、未来を向いた。いつの日か、新しい伝統を築いたホークスでの復帰を夢見て…。【押谷謙爾】