「本塁打王のオーラ」を思い出せ!!

 阪神新井貴浩内野手(35)が14日、鹿児島市内の最福寺で9年連続となる護摩行(ごまぎょう)に臨んだ。池口恵観法主(76)は「下半身から気が出ていない」とダメ出し。本塁打王を獲得した05年当時の「気」を求められた新井は、2メートル以上燃えさかる炎の前で心を奮い立たせた。

 天井に届きそうな火柱から火の粉が飛び散る。激しく揺れる炎の前で新井が紅潮した顔をゆがめた。何度も目をつむり、不動真言を絶叫した。燃やす護摩木は昨年と同じ2000本だが、火力は昨年よりも強い。腹の底から声を出さねば、耐えられない苦しさだ。約1時間40分の苦行を終え、腫れた顔で言った。

 新井

 今年は特に(火が)強かった気がする。声を出しながら昨年の自分に対して「クソーッ!

 コノヤローッ!」ってね。今年は絶対にやってやるぞと大きい声を出した。昨年はすごく悔しい思いをした。今年は絶対にやってやると思って、護摩行をしました。

 今年で9度目。いつも一緒に護摩行を受けた金本氏の姿はなかった。この日は池口恵観法主から辛口の“ダメ出し”を受けた。

 池口法主

 気の出方が弱い。筋肉を支えるのは気。上の方は出ている。下から押し上げる気が弱い。新井は(去年)表面だけの気が多かった。地の底から出てくる強さを感じなかった。

 途切れることなく般若心経や不動真言を唱え、新井も次第に声が大きくなった。池口法主も「今は出てきている。これが続けば面白いプレーをする。本塁打を打つんじゃないですか。去年より、いい成績を残すんじゃないですか」と続けた。

 広島時代の04年オフに護摩行を初体験。出番に飢え、野心に満ちていた。レギュラーに定着できなかったが、苦行を境に生まれ変わった。05年に43本塁打を放ち、本塁打王に輝いた。

 池口法主

 レギュラーをとりたいというので(最福寺に)来た。あの時は、すごく気が出ていた。本塁打王をとったときの気の出し方を思い出せと言いたい。

 昨季は右肩の痛みが悪化し、9月下旬に登録抹消。規定打席こそ達したが、打率2割5分、9本塁打では納得できるはずもない。

 新井

 上半身を鍛えても、下から湧き出るような体の芯からの気がないと力を発揮できない。下半身からも、まだまだ気が出ていない。1年1年が勝負だけど、年齢を重ねる。今年もまた「ハイ、去年の感じでした」じゃ、許されない。

 昨年、ブレークした弟良太、新外国人コンラッドらと定位置を競う立場だ。衰えるのはまだ早い。13年の新井は野心満々で打席に立つ。【酒井俊作】

 ◆護摩行(ごまぎょう)

 インド伝来で密教最高の修行法。燃え上がる炎の前で全身全霊を込めて不動真言を唱え、煩悩を焼き尽くす。最福寺は鹿児島市平川町にある真言宗の寺で、起源は室町時代。67年に池口恵観氏が法主になった。最福寺での護摩行は、昨年限りで引退した元阪神の金本知憲氏や元オリックス清原和博氏、広島の野村謙二郎監督が現役時代に経験。作家の家田荘子さんや民主党の菅直人氏はじめ、橋下徹大阪市長も弁護士時代に滋賀県内の寺院で体験した。

 ◆池口法主から新井への言葉08年「常在戦場」

 「いつでも戦場にいる心構えで事をなせ」という心得。阪神移籍したオフに授けた。09年「背暗向明」

 阪神移籍の前年は8月の北京五輪後に腰の骨折で離脱。「どんな時でも光のある方へ、明るい方へ、一心不乱に進んでいきなさい」という思いを込めた。10年「中心を取る」

 今やるべきことを常に忘れないという意味。主軸としての期待をかけた。11年「小欲を大欲で制す」

 小欲は自分のため、大欲は人のためという解釈。「真言密教の教えの中にあるらしいです。大きな欲を持って1年間戦いたい」と気合。12年「勇猛精進」

 勇敢に、精力的に物事を行うこと。「人の3倍以上頑張る。人が10倍やったら30倍、40倍やる」という思いを込めた。