<巨人2-3阪神>◇8日◇東京ドーム

 「代打の神様」の今季初安打が、巨人戦3連勝を呼び込む決勝打となった。2-2の延長12回2死一塁で、阪神桧山進次郎外野手(43)が代打で登場し、右翼線に勝ち越しの適時二塁打を放った。2点リードしながら8、9回と失点して延長戦に突入。勝ちがなくなる瀬戸際でベテランの大きな一打が飛びだした。6年ぶりの敵地東京ドームでの3連勝で、首位巨人との差は2・5ゲームに縮まった。

 敵地での巨人戦3連勝を決めたのは、やはり、この男だった。延長12回2死一塁、代打・桧山。虎党の願いが大歓声に託された。立ちはだかる大男マシソンの150キロの剛速球を打ち返せるか。初球ファウル、2球目ファウル…。「クソッ、前に飛ばへんなと思ってたけど、何とか食らいついていこうと」。ベテランが鬼の形相になった。

 ドラマはカウント1ボール2ストライクからだった。まず、一塁走者の田上が走った。桧山は気付かずに内角直球に食らいついた。強くたたきつけた打球は一塁手の頭上を越えて、右翼線に弾んだ。「やった~、今年、初ヒットや。二、三塁やと思ったら、えっ、これ(ホームに)かえるぞ、かえるぞって。最高の場面で打ててよかった」。“代打の神様”も大興奮の劇的な結末。二塁ベース上で高々と両手を突き上げた。

 「5月に入ってからも自分だけ、ヒットがなくてね。焦る気持ちがないと言ったらウソやけど、焦ったらアカンし、焦らなくてもアカンし」。涼しい顔の裏で見えない重圧に耐えた。昨年8月23日の中日戦(倉敷)で、球団の代打通算打点に並んだ2点適時打以来、22打席安打がなかった。

 チャンスは1試合に1打席あるかどうか。ただ、「無安打」という結果は容赦なく追い立てる。時には自分のスイングを疑いそうになったこともあったという。ただ、それを表には出さなかった。ベンチでの喜びの儀式に笑顔で参加し、チームメートに声をかけた。それがチーム最年長で、伝統球団の“代打の神様”と呼ばれる男の気骨だった。

 今季、本拠地・甲子園での試合後、桧山はベンチ裏から最後まで出てこなかった。みんながクラブハウスへ引き揚げた後、バットを振っていた。そんな孤独な戦いの中、救いをくれたのは和田監督だった。試合前の打撃練習後、「調子自体は悪くないからな。1本、出るまでだから、な」と、声をかけられていた。

 時に迷いながらも、最後まで自分を信じて、バットを振り続けた258日間。桧山の今シーズンが最高の形で幕を開けた。【鈴木忠平】

 ▼阪神は延長12回に代打桧山が勝ち越し打を放ち、巨人に3連勝。阪神が東京ドームの巨人3連戦で3連勝は07年9月7~9日以来、6年ぶり。桧山は今季10度目の代打起用で初安打、初打点となり、V打は11年7月13日巨人戦のサヨナラ犠飛以来、2年ぶり。セ・リーグの通算代打安打3傑は(1)宮川孝雄(広島)187(2)浅井樹(広島)154(3)桧山進次郎149で、通算代打打点の3傑は(1)宮川孝雄118(2)川又米利(中日)105(3)桧山進次郎99。安打、打点ともに桧山は3位で、リーグ3人目の150安打、同じく3人目の100打点へ王手をかけた。