<ソフトバンク1-6巨人>◇15日◇ヤフオクドーム

 どこまでも底が知れないルーキーだ。巨人菅野智之投手(23)が、プロ初完投でハーラー単独トップの7勝目を挙げた。あと1人で完封を逃したが、新人で最多勝を獲得する可能性も出てきた。課題だった左打者を外角スライダーで封じ、打力で交流戦を制したソフトバンクを制球力で圧倒。ルーキー右腕が、勝ち星を積み上げられるのには理由がある。生命線の制球力を生み出す「動作の再現力」に潜入してみた。

 3枚の写真が、菅野の「再現力」を雄弁に語っていた。三塁側カメラマン席から、全126球のリリースの瞬間を定点で狙った。1回の13球目、5回の60球目、9回の117球目と無作為に抽出した。1回は直球、5回はカットボール、9回はセットポジションでのつり球だった。球種や動きだしは違えど、リリース時の動作は、試合を通じて完全に重なっていた。

 人間は機械と違い、動作を完全に再現することが出来ない。力み、焦り、不安。五感という特有の能力が邪魔をする。体調も日々、違う。では、ルーキー菅野はなぜ、出来るのか?

 菅野

 小さいころ、壁に30センチ四方の四角い枠を作って、10球投げて何球入るかを、ずっとやっていました。最初は3球くらいだった。でもずっと続けているうちに、8球、9球と入るようになった。入る感覚が分かるようになったんです。

 野球少年なら誰でも通る道だろう。菅野はここからが違う。狭い的をピンポイントで狙う練習を、今も継続している。登板2日前のブルペン投球は、四角い枠がミットに変わっただけ。コースと球種を指定して、構えたミットが動かなくなるまで繰り返す。「ちょっと、とは何センチ外れているんでしょうか」と聞くことも多い。「僕の場合は、ブルペンで課題が出た方が、試合でいい結果が出る場合が多い」と明かす。

 内藤トレーニングコーチは「ゴルフのドライバーショットと投球は、再現が最も難しい動作の双璧」と言う。ボールをインパクト(投手はリリース)するまでの間に、大きな体重移動がある。かつ、その間に複雑な動作が絡まり合っている。5月の全米プロシニア選手権を制した、井戸木鴻樹(51)の名前を挙げて説明した。

 内藤コーチ

 インパクトが1ミリ狂えば、200ヤード先では何メートルも狂う。井戸木さんは、気が遠くなるほどショットを繰り返して、あの曲がらないスタイルを身に付けたはず。制球力も同じ。動作を再現する確率を上げるために、選手は毎日、練習する。確率は、繰り返した回数、積み重ねで決まる。近道はない。

 小さな的に当てる喜びがスタートだった。コントロールという、投手にとって永遠のテーマを純粋に追い求めてきた。菅野は「技術がすべてだと僕は思う」と言う。「完投や完封は、自分がやりたくてするものではない。チームのために、求められるものだと思う」とも言う。強打を封じた初完投。126球の再現力に、この新人のすごみが詰まっている。【宮下敬至】

 ▼菅野がプロ初完投で7勝目を挙げた。新人の完投は則本(楽天=2度)三嶋(DeNA)に次いで今季3人目だが、2人は完投負け。新人の完投勝利は今季初めてになる。2ケタ奪三振は4月13日ヤクルト戦10個、5月18日西武戦12個に次いで3度目。新人で2ケタ奪三振を3度以上は07年田中(楽天=5度)以来で、巨人では99年上原3度、03年木佐貫6度に次いで3人目だ。この日で巨人は61試合目。新人で最多勝と奪三振のタイトルは99年上原が最後だが、チーム61試合時の成績を比較すると

 

 

 

 勝-敗

 振

 

 防御率

 上原

 8-3

 75

 1・91

 菅野

 7-2

 84

 2・48

 上原はこの時点で8勝も、奪三振は菅野が多い。