「第42回三井ゴールデン・グラブ賞授賞式」が28日、東京都内で行われ、阪神鳥谷敬内野手(32)が新たな鉄人伝説を誓った。遊撃手としてはリーグでただ1人、フルイニング出場を果たし、守備率、補殺数など“5冠”を記録。両リーグ最多票を集めての受賞は名実ともに球界最高遊撃手となった証しだ。来季は2リーグ分立後初となる遊撃での3年連続フルイニング出場を目指す。

 鳥谷が報われた瞬間だった。壇上、金色に輝くグラブを手にすると、その重みを確かめるように、じっと見つめた。

 「やっぱり、毎年、一番ほしい賞ですから。うれしいです」

 言葉に実感がこもった。2年ぶりに奪い返した栄誉だったが、ここまでを考えれば、最も意味があったのは両リーグ最多の221票を集めたことだろう。

 12球団本拠地で土のグラウンドは甲子園のみ。打球は走らない。イレギュラーの危険は常にある。過酷な環境でリーグ遊撃手で1人だけフルイニング守った。213刺殺、476補殺で合計689個のアウトに関わった。その上で最少4失策。守備率と全イニングを守ったことによる守備イニングもあわせ“遊撃守備5冠”は、文句のつけようがなかった。

 客観的評価の難しい守備において、これまで鳥谷の実力と評価は必ずしも一致しなかった。複雑な思いをしたこともあったはずだ。

 「評価は自分でできることじゃないので。いかにアウトにするかということだけを考えてきた」

 三遊間への深い打球を処理した際、人工芝ならワンバウンド送球でアウトにもできる。だが、土では一塁手の捕球ミスにつながる。鳥谷の送球がいつも矢のような直線を描くのはそのためだ。失策を生みやすい環境も、周囲の評価も言い訳にせず、アウトを奪う技術を追求してきた。左翼へ抜けるかという打球を捕球、ノーステップで一塁へ-。日本人離れしたプレーを見せ続けた末に、ようやく周囲の評価が追いついた。

 人知れない努力が報われた男の表情は晴れ晴れとしていた。そして、また、新たな目標が湧き上がる。2リーグ分立後、だれも成し得ていない遊撃での3年連続フルイニング出場だ。

 「それは毎年、考えていることなので。それをした上でどうかということ」

 大記録を前提に、再び守備の栄誉に輝く。聖地・甲子園に咲き続ける華は美しく、そして、たくましい。【鈴木忠平】

 ▼鳥谷が来季も遊撃手としてフルイニング出場し3年連続となれば、2リーグ分立後初となる。過去に遊撃手のフルイニング出場は、72~73年藤田平(阪神)、84~85年宇野勝(中日)の2人。ほかに05~06年石井琢朗(横浜)が全試合遊撃手として先発しフルイニング出場も、06年のみ2試合で途中三塁に回った例がある。なお1リーグ時代には、濃人渉(大洋・西鉄)が41年87試合、42年105試合、43年84試合と3年連続して遊撃でフルイニング出場している。