田中よ!

 いきなり出てこい!

 広島の合同自主トレーニング(大野練習場)が始まった15日、緒方孝市野手総合コーチベンチ担当(45)が、唯一の新人野手であるドラフト3位・田中広輔内野手(24=JR東日本)にゲキを飛ばした。新人の起用で内野争いに新たな刺激を加え、チームを活性化させたい構えだ。

 新人を含めた35選手が寒さを吹き飛ばすように精力的に動いた合同自主トレ初日。昨季の打撃コーチから野手を統括する重職に就いた緒方コーチが視察に訪れた。鋭い視線を飛ばす、その先にいたのは田中だった。ドラフト1位の大瀬良以下、5人のルーキーにあって唯一の野手だ。

 「(野村)監督とも話し、1軍キャンプに連れていく方針。社会人のときからいい選手なのは知っているし、もちろん大きく期待している。今の内野陣、特に遊撃手争いに加わって、梵に続く存在になってほしいと思っている」

 普段は選手の起用などについてあまり口を開かない緒方コーチがきっぱりと明言。大瀬良ほどメディアの注目を浴びていない田中だが、それだけ期待の高さを示した格好だ。

 背景には昨年、16年ぶりにAクラス入りし、さらに上位を狙うチームにあって、不安材料となる梵のコンディションがある。今季は新しい選手会長となり、チームの主軸であることに変わりはないが、心配されるのが一昨年に手術した右膝の状態だ。

 「フルイニングを続ける阪神鳥谷とは違う。シーズンずっと、というわけにはいかないだろう。逆に昨季はいろいろな選手を起用したが、誰もそのチャンスをしっかりつかめていないのが現状」(緒方コーチ)。それだけに新加入の田中が梵に次ぐ、あるいはその地位を脅かすような存在になってくれば、チームが勢いづくことは間違いないとみる。

 「期待されるのはうれしいし、光栄です。自分もそのつもりでやっているし、意気に感じてやりたいです」。緒方コーチの思いを伝え聞いた田中は笑顔を浮かべ、話した。東海大相模、東海大で巨人菅野と同級生。遅咲きのプロ入りだが「早くプロに入った人には経験できないことをやってきたつもり。このタイミングでプロ入りして良かったと思えるようにやりたい」と言い切った。【編集委員・高原寿夫】

 ◆田中広輔(たなか・こうすけ)1989年(平元)7月3日、神奈川県生まれ。東海大相模-東海大-JR東日本からドラフト3位で広島入団。安定感ある打撃と広い守備範囲に定評がある。巨人菅野とは高校、大学と同期。12年都市対抗野球で若獅子賞を獲得し日本代表にも選ばれた社会人NO・1内野手。50メートル走6秒0、遠投100メートル。172センチ、79キロ。右投げ左打ち。契約金7000万円、年俸1100万円。背番号63。