<ヤクルト8-9巨人>◇16日◇神宮

 キャプテンが大乱戦にケリをつけた。巨人阿部慎之助捕手(35)がヤクルト戦の延長10回に、この日2本目となる右翼越えのソロ弾で連敗を4で止めた。自慢の救援陣が崩れ、9回に同点弾を浴びたマシソンがヤクルト・バレンティンと乱闘寸前になったが、両者の間に入って制止。騒然とした空気の中で、冷静に勝負強さを示した。

 阿部の視界が、我を失った助っ人右腕の姿をとらえた。9回2死。勝利目前でレフトへ特大の同点弾をバレンティンに浴びたマシソンの目が血走る。味方ベンチにガッツポーズしてマウンドに向き直ったバレ砲に罵声を返した。ベースを周りながら罵詈(ばり)雑言の応酬となった両者がマウンド上で、もみ合いになった。両軍がベンチから飛び出し、入り乱れる中で阿部が日本本塁打記録を持つ怪物を、体を張って止めた。

 阿部は静かに怒っていた。相手ではなく、マシソンに。「打たれて、負け犬の遠ぼえみたいだった。あいつが、悪い」。イニング終了時にも再び挑発したマシソンを厳しく、いさめた。

 決着はバットでつける。乱闘騒ぎ直後の延長10回。冷静に打席に入る。ルーキー秋吉の投球は、欠場した前日16日の登板で目に焼き付けていた。真ん中に甘く入ったスライダーを一刀両断で仕留めた。「うれしいのと、本当にこれで終わるのかな、と思った」と半信半疑の1発で、4時間15分の熱戦にケリをつけた。

 逆転した9回もクールすぎるほどだった。村田が凡退し、攻撃終了。ネクストで待機していた阿部は、スコアボードで相手の打順を見て、ブルペンでマシソンの状態に目をやり、バックスクリーン上の旗で風向きを確認した。捕手としてのルーティンを、こんな状況でもていねいに遂行していた。

 試合前はノリノリだった。球場入りの際、スコアボードに直前まで行われていた東都大学リーグ「中大3-0国学院大」の結果が表示されていた。「お!

 いいね~、中大。オレも行くよ~」。母校の勝ち点獲得に気分を良くした。橋上打撃コーチとのティー打撃では相手先発八木の直球を想定し、準備を進めた。5回には狙い通りに直球を捉えて、今季50打席目で待望の1号。「オレには直球が多いデータが出ていたから」。ノリと戦略が合致した。

 中継ぎ陣が打たれ、3度のリードを許しながらも逆転して、連敗を4で止めた。原監督は「よく粘った。今日は負けられない試合だった。1つ1つのプレーを振り返ると朝が来てしまう」と締めくくった。阿部も疲労感は隠せなかった。「見ている方も疲れたと思うけど、やっている方は10倍疲れた」。乱調と乱闘の苦労も、久々の勝ち星と1発が吹き飛ばしてくれる。【広重竜太郎】