<広島3-4阪神>◇25日◇マツダスタジアム

 マエケンをあんぐりさせた。173センチの体に秘めた阪神上本博紀内野手(28)のパワーがさく裂した。7回、広島前田のスライダーをフルスイング。左翼席上段へ起死回生の同点2ランを運び、8回今成の決勝打を呼んだ。23日巨人戦。タッチが甘く盗塁をアウトにできなかった。そんな悔しさの分だけ、いつもよりパワーも増したのかもしれない。

 ハイタッチの列の後方には笑顔の藤浪がいた。跳ねるように進む殊勲者上本。身長173センチの男が、197センチの後輩から祝福を受けた。右腕の黒星を消し、逆転勝ちを呼び込む1発だった。

 「追い込まれていた状況でしたけれども、なんとか食らいついていくことができました」

 昨年45イニングで2点しか奪えなかった広島前田が今季初対戦でも立ちはだかっていた。2点ビハインドの7回2死一塁。3球ファウルで粘った9球目。真ん中に入ったスライダーが唯一のチャンスだった。左翼席への打球に「(手応えは)どうか分からないですけれど、一生懸命走りました」。故郷広島での初アーチとなる5号2ラン。前田にダメージを与えたことは今後のペナント争いにも大きな意味を持つ。

 直前では粘投していた藤浪に代打が送られていた。上本はそこまで2打数1四球と安打なし。それでも藤浪登板試合は、試合前時点で15試合中13試合に出場。打率4割7厘の好成績を誇っていた。前田にパンチを浴びせ、後輩藤浪を助ける。そんな1発を和田監督も「何とかつなごうとカットしながら、甘い球を一発で仕留めたね。本当に欲しいところでの1発、言うことないね」とたたえた。

 今季はここまで75試合に出場。自己最高の数字が物語るように、4月から中心選手としてチームを引っ張っている。それでも5月、右手親指の骨折で離脱した際には、2軍の選手にもおごることなく接した。その姿は2年目北條が「自分のことよりも、僕たちのことを考えて控えめな立場で後押しをしてくれる」と言ったほどだ。23日巨人戦の9回1死一塁では盗塁を試みた鈴木を刺そうとルーキー梅野が素早く送球。アウトに見えるタイミングだったが、上本のタッチが甘くセーフに…。その後、梅野が能見のワンバウンドを止められず(記録は暴投)決勝点を献上。後輩に敗戦を背負わせてしまった形になった。1日挟んだこの日。お返しは最高の形で実現した。

 バスに乗り込む直前、前田のスライダーが切れていたかの問いに「はい」とうなずいた。「いいピッチャーでした」。それでも勝った。小さなヒーローが故郷広島で躍動した。【松本航】