<阪神5-4ヤクルト>◇30日◇甲子園

 わずかなミスにつけ込むのが勝負の鉄則だ。阪神は2点を追う4回1死一、二塁。代打新井良のゴロが三塁前に飛ぶ。5-4-3…。誰もが最悪の併殺打を思い描いた瞬間だった。一塁側ベンチで見守る鳥谷敬内野手(33)も目を疑った。二塁山田が一塁に悪送球した。攻守交代のはずが1点差に迫り、好機は続いて、一気に同点に追いついた。さらに2死二、三塁で打席に向かう。千載一遇のチャンスに奮い立った。

 「相手のミスでチャンスが巡ってきた。歳内が、流れが向こうに行きそうなところを断ち切ってくれた」

 フォークを連投する石山の5球目をミート。軽やかにバットをさばき、ライナーで中前に運んだ。「追い込まれていたので、球種どうこうより、ストライクゾーンに来たら何とかしたい気持ち」。2者が生還する勝ち越しタイムリーに、一塁ベース上で仁王立ちする。ニコリとも笑わない。貫禄勝ちの好打が接戦の決勝点になった。

 今年もまた、夏場に入ると調子を上げてきた。7月は21試合で84打数30安打、打率3割5分7厘と好調を維持する。「暑いので、体が動くというのはある」と話すが、細心の体調管理のたまものだ。

 急に暑くなった直前カードの広島戦(マツダスタジアム)でも工夫を凝らす。試合前練習中、グラウンドで500ミリリットルのペットボトルを肌身離さない。守備を終えて飲み、打撃を終えて飲み、走塁を終えて飲んでいた。こまめな水分補給を怠らなかった。

 実は、これはスポーツ科学で「ウオーターローディング」と呼ばれるコンディショニング法だ。体内を常に一定量の水分で満たすことで、運動能力の低下を防ぐもの。一気にグビグビと飲むよりも内臓の負担もかからず、体調も維持できるといわれる。野手では、まだ、あまり行われていない調整法を採り入れ、今季もフルイニング出場する。

 1回にも1死一塁で中前打を放ち、ゴメスの適時打を導いていた。この日は単打2本を重ね、通算のシングル安打は1128本。球団5位の真弓にあと2本に迫る。夏バテとは無縁の鉄人が、過酷な真夏の戦いを引っ張る。【酒井俊作】