<楽天1-0日本ハム>◇19日◇コボスタ宮城

 やっと、やっと、褒められた。楽天則本昂大投手(23)が、田中(ヤンキース)が11年に記録したシーズン6完封を塗り替える7完封の球団新で、13勝目を挙げた。9回3安打13奪三振で、5回まで走者を1人も許さない完璧な内容。史上6人目となる出場全選手からの奪三振というオマケつきだった。前日18日に辞任を発表した星野仙一監督(67)から初めて「エースのピッチング」と褒められた。お世話になった指揮官に成長した姿を見せ、チームは4連勝だ。

 則本はお立ち台で、小さい子どものように甘えた。「さすがに今日は褒めてもらいたいなと思います」。純な思いは、星野監督から初めての言葉を引き出した。同時刻に行われたインタビューで「これが本当のエースのピッチングだった」と言った。重い重い「エース」の響き。これまで則本を評価する時に、決して口にしなかった。「3年やってからだよ」といつもは怒るのに、この日ばかりは最高の賛辞を送った。

 褒めちぎっても足りないくらいの投球だった。取りたいと思えば、三振が取れた。最大のピンチは6回。1死三塁とすると表情が変わった。グッと打者をにらんだ。日本ハム大野を浅い右飛に仕留め、タッチアップを許さない。続く西川を138キロのフォークで空振り三振に抑えると、ほえた。ガッツポーズを繰り出し、闘志を前面に押し出す姿は昨年の絶対エース田中をほうふつとさせた。

 気合は十分だった。前日に指揮官が辞任を表明。「一緒に試合が出来るのは残り少ない」と感傷的になった。入団前から憧れの存在だった。新人の昨年は開幕投手に抜てきされ、チームの未来を託すような起用を続けてくれた。「退かれる時に少しでも良い順位にいるべきだし、しなくちゃいけない」と必勝を誓った。

 心に刻む言葉がある。昨年5月のオリックス戦で7回を無失点に抑えた。意気揚々とベンチに下がると、星野監督が渋い顔で待っていた。なぜ?

 と疑問に思っていると声が飛んだ。「糸井への四球がなかったら、9回まで行ける」。3番糸井へ2四球を与えたことを指摘された。並の新人ならば100点だが、ここで満足するなと言われたようだった。

 そこから意識が変わった。四球を与えれば、リズムが崩れ、攻撃にも影響する。チームを乗せ、勝たせるのが、エースだ。制球を乱さず、テンポよく投げることで開幕戦でプロ初完投勝利。勝つ感覚をつかみ、7完封目を挙げた。

 則本は報道陣から監督の褒め言葉を伝えられると「ホンマっすか!」と喜びを爆発させた。だが、内緒にされた部分もある。星野監督はこうも続けていた。エースという言葉が出たと指摘されると、「まだまだ、それは早いよ。(チームの4連勝も)甘いわ」と。3位日本ハムとは7・5差。高い場所を目指し続けろというゲキは、最後まで続きそうだ。【島根純】

 ▼楽天則本が自身初のスコア1-0完封で今季7度目の完封勝ち。シーズン7度以上の完封勝ちは89年斎藤雅(巨人=7度)以来。パでは78年鈴木啓(近鉄=8度)以来36年ぶりとなった。則本は日本ハムの打者9人全員から奪三振。全員奪三振(継投を含む)はロッテが8月20日オリックス戦で4人継投で記録して以来16度目。1人の投手でマークしたのは09年9月1日西武戦の岩隈(楽天)以来で史上6人目。全員奪三振で完封は04年松坂(西武)08年大場(ソフトバンク)に次いで3人目だ。