<阪神9-3中日>◇19日◇甲子園

 3回、打席に向かおうとする阪神福留孝介外野手(37)に声がかかった。

 「本塁打、打てますよ」

 いたずらっぽく笑う西岡に軽く応えると、福留は中日山井と向き合った。スライダーに反応した。体勢を崩さずにとらえた打球は高々と上がって右中間スタンドに届いた。1点リードの場面、どうしても欲しい追加点をたたき出した。

 「ツヨシが打てそうやなと言ってくれたおかげで打てました。ツヨシの“予告ホームラン”です」

 ダイヤモンドを1周すると、自分のことのように喜んでいる西岡を“予言者”としてたたえた。

 最近5試合で3発-。晩夏にやってきた福留の爆発を西岡より少し早く予言していた人物がいる。はるか600キロも離れた鹿児島県大隅半島で毎晩、テレビの前に陣取る父・景文さんだ。14日の広島戦、凡退した打席を見て母・郁代さんに言ったという。

 「孝介、次の打席、ホームラン打つぞ」

 2日後の神宮ヤクルト戦でも、芋焼酎を片手に断言したという。

 「今日も出るな」

 福留少年に野球をたたき込んだ。夕飯の後、打撃練習をするのが福留家の日課だった。父も、母もトスを上げた。雨どいを改造してティー打撃マシンもつくった。PL学園に送り出し、アトランタ五輪にも足を運んだ。阪神移籍後の不振には悔しい思いが募った。今季サヨナラ本塁打を打った時には1人、テレビの前で涙した。だれよりも福留のスイングを見てきた父の予言…。的中は必然だった。

 そして、野球人はともにプレーする選手の状態に敏感だ。福留の打撃を間近で見ている西岡の“予言”にも根拠があったはずだ。

 初回には反撃のタイムリーを放ち、6回にはとどめの9点目をたたき出した。1試合3安打は阪神移籍後初めて。日本球界では07年6月以来、じつに2658日ぶりだった。「6番打者」に悩んできた猛虎にとって、福留の好調はCSへ向けても最高の材料だ。かつてMVPを獲得した男の打撃は戻りつつあるのか。

 「盆と正月が1度に来たような感じですね」

 プライドもあるだろう。本人はこの事実を笑いに変えた。ただ、だれよりスイングを見てきた父と、ともに戦う仲間が今の福留を見て「打つ」と確信した。2人の予言者の存在が福留復活に現実味を与えている。【鈴木忠平】

 ▼福留の猛打賞は、13年に日本球界へ復帰し阪神入りして以来初。中日時代の07年6月10日ロッテ戦(ナゴヤドーム)で3安打して以来、通算97度目。なおメジャー時代には5シーズンで計29度の猛打賞を記録(カブス24度、インディアンス5度)。