<SMBC日本シリーズ2014:ソフトバンク1-0阪神>◇第5戦◇30日◇ヤフオクドーム

 3年ぶりの頂点は、違った味がした。日本シリーズMVP初受賞。ソフトバンク内川聖一外野手(32)はかみしめるように言った。「(移籍元年の)3年前は無我夢中でやっていたら、日本一になった。今年はいろんな経験を自分の中で消化しながらだった。成長したかなと思う」。最終戦でのリーグ制覇に、4勝3敗のCS突破。シリーズでは第2戦から2戦連続の初回先制打を放った。いずれも決勝打になった。この日もマルチ安打で得点にも絡んだ。最高の打撃技術を誇る男が修羅場をくぐり、飛躍を遂げた。

 プロ野球選手がすべきことは何か?

 考え抜いた末のMVPだった。ペナントレースの最中、内川はある行動を取った。試合後の本拠地。薄暗い無人の一塁スタンドに足を運ぶ。座席に腰を下ろし、じっとグラウンドを見つめた。「今日の俺はどう見られていたのか。頑張らなきゃ。下を向いてばかりじゃいけない」。ファン目線で、自分に問うた。結果は4勝1敗だったが、試合展開は接戦の連続。「1球1打に反応を示してもらえる中でやれるのは幸せ。ファンの力が必要だとあらためて感じさせてもらった」。苦しみも喜びもさらけ出し、全力プレーに尽くす。無人のスタンドで自問した答えが、ここにあった。

 シーズン中盤には右大臀(だいでん)筋の肉離れでチームを1カ月離脱。CS前には秋山監督が退任を発表した。「動揺したし、ショックもあった。でも試合終わるまでは封印して、やり通した」。激動の1年を過ごし、内川が円熟の境地に立った。【田口真一郎】