ベテラン左腕がプライドを捨てて臨み、感極まった。第2回プロ野球12球団合同トライアウトが20日、川崎市のジャイアンツ球場で行われた。投手10人、野手8人が参加。01年セ・リーグ最多勝のDeNA藤井秀悟投手(37)は、打者4人を2奪三振、2内野ゴロと完璧に抑えた。制球を乱した9日の第1回(静岡)から一変。プロ野球界への生き残りを懸けた全身全霊の17球だった。

 こん身の1球だった。藤井が二塁ゴロ、空振り三振で迎えた3人目の打者は又野(ヤクルト)。カウント1-1から始まるシート打撃は、2球連続ボールで、あっという間にカウント3-1に。「人生を左右する」と絶対に四球を避けたかった。15年のプロ生活で培った、すべてを注いだ。直球を5球続けるもファウル。ひと呼吸置いた後、「悔いがないように」と左腕を目いっぱい振った。「何万球も投げてきた」という外角118キロチェンジアップで空振りを奪った。

 直球とスライダーだけを武器に99年ドラフト2位でヤクルトに入団した。捕手古田から「プロは2種類では通用しない」と告げられ、プロで初めて覚えた変化球がチェンジアップだった。この球を生かすため、直球も磨き直した。球速は前回トライアウトから1キロ増の最速133キロ止まりも「ラインの出る投球ができた」と、狙い通りの軌道を描くことができるようになっていた。

 第1回トライアウトの後、悩んだ。プライドは「元からないけど」と言いつつも、「最多勝を取った人で前例がないかもしれない」と、例年合格者が少ない第2回の受験をためらった。しかし、2四球を出したことで「悔しい思いしかなかった。自分の15年間を否定する投球だった」と方向転換。独立リーグから誘いがあったが、NPBにこだわった。ブログでファンから励ましを受け、奮い立った。早朝から横須賀の2軍練習場に通い、第2回に備えてきた。

 通算83勝に最多勝も経験した。この日の参加者では抜けた実績を持ち、ファンからの声援もひときわ大きかった。「寒い中、見に来てくれてうれしかった。まだみんなに見てもらいたい。野球をやりたいという純粋な気持ち…」。声を絞り出すと、こぼれそうになる涙を左手でぬぐった。今後は数日間、オファーを待つ意向。地獄からの生還なるか。【斎藤直樹】