王者が野生にリターンする。チームスローガンに「新成」を掲げキャンプインする巨人原辰徳監督(56)が、15年シーズンのキーワードに「野性味」を加えた。柔軟な用兵、戦術でペナントを奪ってきた近年のスタイルから脱却。個の力でライバルを圧倒する原点回帰の方法論で、リーグ4連覇と日本一奪回を目指す。

 玉砂利を荒々しく踏んだ。1月31日、宮崎神宮に日本一を約束した原監督が「新しく、大願を成就する。『新成』のもと戦う。ここに、もうひとつ。『野性味』を加える」と一気に言った。昨年のCS、阪神に4連敗の屈辱。紳士が百獣の王となり、竜虎はじめライバルを踏みつぶす。

 「野性味」は今季のキーワードになる。だからキャンプイン直前に掲げた。純粋なワイルドさ、の意味で「コンディションであったり、鍛える上での練習であったり」と言った後、続けた言葉が肝だった。「人に頼るのではなくて。練習にしたって、納得いくまで。自立できるか、が野性の本質だと思う。広い意味がある」と目をむいた。

 野球は集団競技であると同時に、個の勝負の集積でもある。食うか食われるかの局面では、誰も手を貸してくれない。近年、この弱さに物足りなさを感じている。チーム単位で攻めたり、独創的な打順を組んだり、大胆なシフトを敷いたり…。総合力でリーグ3連覇した。根っからの勝負師である原監督は、命を巡る攻防が血肉となることを、実体験から知っていた。

 広島が誇る炎のストッパー、津田恒実との決闘。ファウルの衝撃で左手首を骨折した。それでも断固、打撃を変えないどころか、ただでは起きなかった。

 原監督

 バットを短く持つ、って発想は、全くなかった。どんなに速いボールでも、グリップエンドに少し、指をかけた。短く持った瞬間、引退と決めていた。なめられるから。そこで、考えるんだ。目線を絶対に上げない、スタンスをやや狭くして、ぶつかっていく。自分の決め事を作ったんだ。

 野性味が自立を促し、技術を向上させる。この循環が王者・巨人の伝統と信じている。キャンプの目玉、160キロの打撃マシン(通称・球道くん)を導入した真の理由もここにある。夜のミーティングでも「昨年は3連覇したとはいえ、決して良い1年ではなかった。個人、チームの力を出し切れなかった印象だ。新しい1歩を」と締めた。ギラついたキャンプが始まる。【宮下敬至】